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第05話 降って湧いた家族

助けたつもりが助けられていた、なんてよくある話のようですね。

食材を確認する。外にある井戸も使えそうだし、簡単なスープくらいは作れそうだな。

暖炉の火を厨房の囲炉裏に移す。埃っぽいけど、鍋は使える。野菜や干し肉、調味料を入れてかき混ぜる。

廃墟の厨房は古びてて、木の匂いがする。みさきと一緒にキッチンに立ってた頃を思い出すよな……。


「キキッ……」

ゴブリンが厨房を覗いている。スープの匂いに釣られたのだろう。大きな黄色い目がキラキラ光ってる。

「こら、待ってろって言ったろ?」

見た目はどうあれ、まだ子供だ。可愛いものだな。ションボリして暖炉に戻っていった。


小さな背中が寂しげで、思わず笑いがこみ上げる。

普段は仕事を理由に家事全般をみさきに任せきりだったが、休みの日には俺が料理を振る舞うこともあった。

値段など気にせず買い物をして、よく怒られたものだ。「圭吾、また高い肉買って!」って、みさきが笑いながら文句言ってたっけ。

あの頃は、週末の料理が楽しみだった。


今は……この子たちのために作る料理が、なんだか嬉しい。

「お待たせ、出来たぞ。立てそうか?」

少女に声をかける。まだ傷は痛むだろうけど、毛皮に寄りかかって体を起こしてる。

「はい、大丈夫です」

小さな声だけど、しっかりしてる。強い子だな。

「キーキーッ!」

「はいはい、待たせたな。二人とも座って」


食卓にスープを運ぶ。少女は行儀よく椅子に座っている。ゴブリンは椅子の上に乗ってしゃがんでいる。

「おいおい、この子みたいに座れないか?」

「キュゥ……?」

まあいい、ゴブリンの中ではこれが食事のマナーなのかもしれない。

尖った耳がピクピク動いて、なんだか愛嬌がある。

「熱いぞ、ゆっくり冷ましてから食べるんだ」

少女の口では熱い物は食べづらそうだな。長い口が少し開いて、慎重にスープをすくってる。

ゴブリンはもう食べ終えようとしていた。早いな、腹ペコだったんだろう。

「キー!キキー!」

「腹が減ってたんだなぁ、まだ有るからな入れてきてやる」

おかわりを注いでやる。ゴブリンがバンザイみたいに喜んで、少女もクスクス笑う。


少女もゆっくりと食べ始める。好評のようで何よりだ。

スープの温かさが、廃墟の冷たい空気を少し和らげてくれる。

「俺は圭吾、外山圭吾だ。ケイゴって呼んでくれ。君の名前は?」

「シーリアです、ケイゴさん……ありがとうございます」

シーリアか。優しい響きだ。

「いいから、後で君の寝床を用意する。詳しい話はまた明日だ、薬草の痛み止めが効いてるうちに休もう」

ゴブリンが話に入りたそうにしている。ゴブリンでも子供はかまって欲しがるもんなんだな。

「お前の名はなんだ?」

「キュエ?」

声に意識を集中するが伝わってこない。有るのかも分からないな。

「名前が無いと不便だな、名前を付けよう。……キー助、でいいか?」

「キュキーッ!」

喜んでいるように見える。伝わっているのか分からないが。


シーリアの寝床を用意する。廃墟の奥に小さな個室があった。簡素な木製ベッドが残っていて、助かった。

埃を払って、荷物から清潔な布と毛皮を敷く。シーリアをそっとベッドに寝かせ、毛皮をかける。

「ここで寝なさい。女の子だし、個室の方が安心だろ?」

シーリアが弱々しく頷く。

「……ケイゴさん、おやすみなさい」

「じゃ、おやすみ。何かあったら大声で呼ぶんだぞ」

個室のドアを閉める。何があったかは明日聞こう。今はとにかく回復に集中しないと。


「キキッ…」

「キー助、お前は俺と一緒に寝るんだ。いいか?」

暖炉まで行く。キー助が後を付いてくる。可愛い奴だ。小さな足音がパタパタ響く。

毛皮を広げて簡易寝床を作る。暖炉の火がパチパチと音を立てて、部屋をオレンジ色に照らす。

キー助を毛皮に寝かせて、俺も横になる。キー助がすぐ俺の隣にゴロゴロ転がってきて、腕に頭を乗せてくる。


みさきと俺は子宝には恵まれなかった。みさきは気にしていたみたいだけど、俺はみさきが居ればそれでよかった。

二人で過ごす週末、みさきの手料理を食べて、ソファでくっついて……それだけで幸せだった。

だが、こうしてキー助の小さな体温を感じると子供と一緒に過ごすのも悪くないなって思う。

シーリアの寝息も、個室からかすかに聞こえてくる。

この廃墟が、急に「家」みたいに感じる。

キー助が寝息を立て始める。俺の腕にぴったりくっついて、安心したみたいだ。


チャドの言う通り、前線での警備よりはここでの生活が俺には合ってるのかもな。

初日から色々ありすぎた。


明日は掃除に買い出しに……リヴェンの町を見て回ろう。

薬草の追加や生活用品、シーリアの服も必要だし何より医者を探さないと。

忙しくなりそうだな。でも、それがいい。

生きてる実感が、湧いてくる。

暖炉の火が弱々しく揺れる。

キー助の寝顔を見て、俺も目を閉じる。

この夜、廃墟は静かで温かかった。

読んでいただいた全ての方に感謝します。

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