第18話 魔族団欒
しばらく再開を喜びあっていた。
言葉は途切れ途切れで、互いの存在を確かめるだけの時間だったが、それだけで胸の奥が満たされていく。
そうだ、この感謝を伝えなければ。
泣きはらした顔を出来る限り整えドアへと向かう。
ドアを開くとすぐにシャーロットと呼ばれた少女が飛び込んできた。みさきにペタペタと触れている。
みさきの世話をしてくれていたのだろうか。
「ゼクロームさん、有難う御座います。本当に……」
感謝が大きすぎて上手く伝えられない。しかしゼクロームは深く頷いてみさきの元へと歩いて行った。
「よかったね……おじさん」
「はい、本当に有難う御座いました。クレアさん」
あの結界に黒騎士、一人では到底たどり着けなかっただろう。
「あ、ケイゴ。アタシらにその話し方やめた方がいいんじゃない?奥さんの前でカッコ悪いだろ」
突然名前を呼ばれて驚いた。デイジーなりに気を使ってくれているのか。
「あぁ、本当に有難う。デイジー」
広い応接室へと通された。大きなテーブルを中心に椅子が並ぶ。
みさきは、椅子に座るシャーロットの膝にちょこんと乗っていた。
まるで昔からそうしてきたかのような自然さだ。
ゼクロームに促され、俺たちも席に着いた。
「驚いたじゃろう……ケイゴ」
「はい、正直驚きました。ですが、こうして話が出来ただけで幸せです」
そう、姿はどうあれ触れる事も出来る。今でも信じられない。
「転生術は異世界で死んだ者の魂を呼び寄せるが、肉体はこの世界で形成されるのじゃ」
ゼクロームの言葉を黙って聞いている。
「みさきはなぁ……、何故か魂に魔力が備わらんでな。肉体がこれだけしか形成出来んかった。本当にすまんな……」
俺と同じか。俺の場合は身体ごと召喚されたが、それは召喚術。
魔力を持たない者の転生術はこのような結果を生むという事だろうか。
(ちょっとおじいちゃん、もうその事は謝らない約束でしょ)
みさきの言葉に吹き出しそうになる。おじいちゃん?クレアとデイジーが勢いよく顔を伏せる。
「どうしてそんな状態のみさきさんを保護しようと思ったんだ?」
デイジーが尋ねる。確かに気になるな。
「気になるかい?じゃがなぁ……儂にも分からん」
予想外の返答に意表を突かれた。ゼクロームがみさきを見つめる。
「ただ……みさきはそんな状態でも、有難うと言ったんじゃ」
デイジーがみさきを見ながら何かを考え込んでいる。
「ケイゴよ、みさきはお前が連れて帰るべきなのじゃろうが……」
ゼクロームがためらいがちに切り出す。
「残念じゃがそれは無理じゃな。今のみさきは、ここで作る魔道具や儂の魔力で肉体を維持させている……」
覚悟はしていた。みさきに何かあっても俺では対応できない。
「いえ、ゼクロームさん。みさきが生きている、俺にはそれだけで十分です。またいずれ会いに来てもいいですか?」
ゼクロームが目を瞑って深く考え込む。
「魔王様なら、みさきを人間に出来るやも知れん……」
魔王様……その言葉に、胸の奥が僅かにざわついた。しかし、その提案に期待せずにはいられなかった。
(そんな事お願いして、おじいちゃんの迷惑にならない?)
みさきがゼクロームを気遣う。確かにみさきを人間にすることは戦力の増強にはならない。
人間に協力してあらぬ疑いをかけられるのは、ゼクロームにとって不本意極まりないはずだ。
「みさきはそんな事気にせんで良い。それに魔王様もみさきの事は知っておる」
ゼクロームが孫に言うように優しく答える。
「魔王……人間がどうやって魔王城に入るんだ?入れたとしても会わせてはくれないだろ?」
デイジーの、もっともな疑問。
「そうじゃな。おい、入れ」
ゼクロームの声に応じ、部屋の外で待機していた黒騎士が静かに入ってくる。
「この者たちを魔王様の元へ案内せい」
「無理を言うな、私はゼクローム殿の護衛でここに居るのだ」
呆れた様子で黒騎士が言う。
「なんじゃケチじゃなぁ。じゃあ儂が行くわい」
「あまり困らせるな……。私はゼクローム殿の監視も兼ねているのだ」
普段から手を焼いている様子だ。静かに黒騎士に同情する。
ただ訪問しても門前払い、強行するわけにもいかない。一同、思案に暮れ室内は静まり返った。
「わたしがいくしかないかぁ。しかたないなぁ、しかたないなぁ」
少女の声が沈黙を破る。膝の上のみさきを優しくテーブルに乗せシャーロットが立ち上がった。
「えっ、ちょ……」
クレアが何かを言おうとして言葉を飲み込む。
「やむを得んな、シャーロット。頼んだぞい、お前もそれで良いな?」
ゼクロームが黒騎士を見て確認する。これ以上は譲れない、そんな目だ。
「……好きにしろ」
そう言って黒騎士は部屋を出て行った。シャーロット、見た目は人間の子供だがここは魔王軍の要所。
底知れない実力を秘めているに違いない。
「ふぅん、シャーロットね。アタシはデイジーだ、よろしくな」
デイジーが軽く片手を上げ自己紹介をする。俺は席を立ち頭を下げる。
「外山圭吾だ。ケイゴでいい、案内お願いするよ」
シャーロットはニッコリと笑い頷いた。
「私はクレア、よろしくね」
クレアは、最後までシャーロットを見ようとはしなかった。
その不自然な振る舞いが、妙に胸に引っかかる。
「じゃあいこー。ちょっとまっててね、みさきー」
みさきを撫でながらシャーロットが出発を促した。
(いってらっしゃい、シャーロットちゃん。圭吾たちをお願いね、圭吾は運動は全然ダメだから……)
余計な事は言わないでくれ。
そうして俺たちは、部屋を後にした。
読んでいただいた全ての方に感謝します。




