第15話 黒い障壁
翌朝、旅の準備をしリヴェンの町に着く。
廃墟の常駐警備をサボっている事が王妃にバレなければいいんだが。
二人が待つ酒場へと向かう。
「相変わらずその服なのね、もういいけど」
「当たり前だろう。魔王軍にも宣伝すれば酒場も大繁盛だな」
デイジーは相変わらずのウェイトレスの服装だな。案外動きやすいのかも知れない。
クレアは諦めた様子だ、俺も口出しすべきではないな。
「おいおい、魔王軍に来られても困るよ。あっ、ケイゴさんいらっしゃい!」
マスターに軽く挨拶をして席に着く。
「無事で帰ってきてくれよケイゴさん。町のみんなもアンタにゃ感謝してるんだからよ」
「心配かけてすみませんマスター。俺のわがままで廃墟を留守にしますが……」
「あぁ、城のヤツらが来たら上手い事言っとくよ。」
話の分かるマスターで良かった。無責任だとは思うがもう止まれない。
「じゃあ今から向かう転生術師の隠れ家なんだけど」
クレアが話を切り出す。隠れ家?何故知っているのか疑問ではあるが。
黙って聞いておこう。
「魔王軍領地の奥だからね。途中までは馬車で行くんだけど……マスター?」
「あぁ、話は通してある。もう厩舎で待ってるよ」
何という手際の良さだ、何もできず不甲斐ないな。
「さてと、早速行こうか。じゃあな、マスター」
デイジーが立ち上がり歩き出す。
「あぁ、気をつけてな……」
店の看板娘だ。流石に心配なのだろう。デイジーを見つめ無事を祈るようにマスターが言う。
「あっマスター、替えの服用意しといて」
デイジーはそう言って、振り向くこともなく手を振りながら出て行った。
「知るか、そんなもん」
呆れるマスターに挨拶し俺とクレアも後に続く。
馬車に揺られながら計画を立てる。魔王軍とアラストリアの戦況は膠着状態、会いに行くには好都合だ。
だが魔王軍は勿論、城の兵隊も避けて通らなければいけない。
戦場を大きく迂回して、安全なルートで目的地の有る森までは馬車で移動。
そこからは転生術師の隠れ家まで歩いて行ける距離との事だ。
「凄いですね、クレアさん。魔王軍についてそこまで詳しいとは……」
「ん?あぁ、別にスパイとかじゃないからね。前にちょっと色々あってね」
この二人について何も知らないな。召喚術は元の世界を嫌いになった者が呼ばれるとチャドから聞いた。
俺のように生きる意味を見失う程の事が有ったに違いない、あまり深く聞くべきでは無いな。
「これ以上は危険ね。ここからは歩きましょう」
馬車から荷物を下ろし御者を見送る、この先は魔王軍の領地。薄暗い森の入り口に立ち緊張が走る。
「おー暗い暗い。この辺の木、全部吹き飛ばすかぁ?」
ガチャガチャとウェイトレスの服装の上に金属製の装備を身に着けたデイジーが躊躇なく入っていく。
「ちょっとデイジー、何しに行くか分かってんの?」
クレアもデイジーに続く。どうやら緊張しているのは俺だけのようだな。
鬱蒼とした森、道らしい道が無い。よく分からない生き物の声が聞こえる。
人間の立ち入る事がほとんど無いであろう魔王軍領地だ。不気味で肌寒い、立っているだけで体調を崩しそうだな。
「召喚術や転生術はここじゃ戦力の要だからな。だから転生術師は魔王軍の幹部だ、簡単には行かないだろうね」
デイジーの言葉に不安になる。あの熱光線や怪我の治療、あんな能力を持つ者に守られているのだろう。
だが戦力として期待できないハズレに会いたいだけ、みさきかどうか分かるだけで良いんだ。
「……あぁー、来ちゃったみたい。アイツ」
そう言ったクレアの視線の先、暗い森の木々に溶け込むように何かが立っている。
立ち止まる俺たちに向かってゆっくりと近づいてくる。
黒い西洋甲冑に黒いマント、全身を黒一色の装備に身を包み肌らしいものが見えない。
兜の中には何も見えず、剣を腰からぶら下げている。
「こんにちは、久しぶりね黒騎士さん」
その殺意を全身から放っている存在にクレアが軽く声をかける。
「……お前か。ならこの先に何が有るか知っているな。立ち去れ。」
「そういう訳にはいかないのよ」
ここで黙っている訳にはいかない、勇気を振り絞る。
「あの、すみません。二か月ほど前に転生してきた方について知りたくて……」
事情を説明するが、表情も何も見えない。まるで置物に話しているようだ。
「分かった……だが。通す事は出来ん。諦めろ」
諦める訳にはいかない、だが二人をこれ以上巻き込む事は出来ないな。
「クレアさん、デイジーさん。お二人はここで帰ってください。俺はここに残ります」
「え?何言ってんの、おじさん」
「無駄だ……諦めろ」
「いえ、どうしても諦める事は出来ません。妻かどうかだけでも教えていただかないと……」
突然、熱風が巻き起こる。周囲の木々を揺らし落ち葉や土が舞い上がる。
「コイツを倒せばいいだろ……」
デイジーを中心に立っていられない程の高温の魔力の波が押し寄せる。
「ちょっとデイジー!何考えてんの!」
クレアが止めに入るが、もう遅いようだ。
「女……手加減できんぞ」
黒騎士が両刃の剣を抜く、その剣は黒く不気味に光る。
「必要ない!!!」
デイジーから熱光線が放たれる。それは俺に放たれたものとは比べ物にならないくらい大きい。
集団を丸ごと飲み込む程の巨大な光線が空に向かって放出されている。
読んでいただいた全ての方に感謝します。




