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第13話 妻の声、孤独と決意

暖炉の火を見つめ一人考える。チャドなら大丈夫だ、必ず引き受けてくれるだろう。

気がかりだったシーリアの傷も癒え家族の元に届けられる。

それが正しい。分かっている。そのために今まで頑張ったんだ。

それでも胸の奥に、ぽっかりと穴が空いたような感覚が残る。


「……また一人か。」

思えばこちらに来てからは、ずっとそばに誰かが居た。

家に帰ればキー助が居て、シーリアが居て。

賑やかだった訳じゃない。だが、孤独ではなかった。

家族の元に帰るのは喜ぶべき事だ。それでも、当然のように寂しさは残る。

暖炉の火が揺れて、橙色の光が壁に影を落とす。

その揺らめきの中に、一瞬、みさきの笑顔が浮かんだ気がした。


「みさき……キー助もシーリアも、本当に良い子たちだよ」

みさきが死んだあとは、いつもこうやって一人で呟いてたな。死んだ人間に、みさきに。

ふと先程の食事の会話を思い出す。魔王軍、転生術。死んだ人間を転生させるとか。


「はは、まさかね……」

魔王軍のハズレか、俺より一月前と言っていた。丁度みさきが死んですぐくらいだろうか。。

いや、都合よく考えすぎだろう。だが一度芽生えた疑念は、簡単には消えてくれない。

考えれば考える程に、思考はみさきへと引きずられていく。


「みさき……お前なのか?」

根拠の薄い妄想だ、だが可能性は有る。処分などされる事無く生きているとも聞いた。

ほんの僅かでも、その可能性があるのなら。


魔王軍のハズレを、この目で確かめたい。

胸の奥で、そんな想いが静かに、しかし確実に膨らんでいった。



それから数日たった。

マスターとの交渉は上手くいき、ゴブリンと人間の小さな交流が始まったようだ。

ゴブリンが持って来る薬草や果物などは町の人には入れない魔王軍の領地の物もあり、貴重な物も含まれているらしい。

物々交換はお互いにとって好評でリヴェンの町が活気づいていた。


町の人々に感謝され心配していたシーリアの事も受け入れてもらえた。服や装飾品の買い物に酒場での食事。

新品の服に着替えたシーリアは見違えるほどに可愛らしかった。いい思い出作りが出来たと思う。

俺も久しぶりの酒を楽しんだ。味なんてどうでもいい。酔える酒が有り、嬉しい事が有る。それだけで十分すぎるだろう。


そしてチャドが来る日、シーリアとのお別れの日が来た。

クレアとデイジーも見送りに来ている、あとはチャドが来るのを待つだけだな。


あの日以来、俺と同じハズレの事がずっと気になっている。

この時にはもう、シーリアを任せてから魔王軍のハズレに会いに行こうと決めていた。



「おう!来たぜケイゴ!」

チャドが物資を運んできた、積み荷を降ろしながら話をする。


「聞いたぜケイゴ!お前ゴブリンを手懐けたらしいじゃねぇか!」

「いや……でも話せるって訳じゃないよ。ただなんとなく分かるってだけだ」

「それでもスゲーぜ。今は行商人がリヴェンの町に大注目だよ」

キー助たち、頑張ってるんだな。


「今日は上がっていってくれ、食事も用意した。話が有るんだ」

「あぁ!そのつもりだぜ」

積み荷を入り口に運びながら、庭の木に馬車を繋ぐチャドを待つ。


我が家に入るとすでにデイジーとクレアが食卓に座っている。二人を見たチャドが目を丸くして固まった。

「デイジーじゃねぇか!あいつゴブリンより手懐けるの難しいだろ、一体どうやって……」

言い終わる前にデイジーの指先から出る光線がチャドの鎧をチリチリと焦がす。

「うぉっ!やめろって!わるかった!」


嫌がるチャドを食卓に座らせ食事の準備をする。食卓にスープの温かい湯気が立ち上る。

「大丈夫だ、シーリア。チャドは頼れる奴だよ」

配膳が終わり厨房からシーリアを連れて出る。

「チャド、シーリアだ。俺が初めてここに来た時、傷だらけで倒れていたんだ」

シーリアが控えめに頭を下げる。白い体毛が少し揺れて、耳がピクピク動く。

「コボルト族かぁ、この辺じゃ珍しいな」


経緯を話す、チャドは黙って聞いている。クレアとデイジーも、時折言葉を添える。

「私が診た時は、耳も取れかけて本当にボロボロだったよ」

「男が取り戻しに来たんだろ?ここに居るのも安全とは言えないよな」


俺は真っ直ぐにチャドの目を見て、本題を切り出した。

「チャド、頼む。シーリアを家族の元に届けてくれないか?報酬なら俺の物資から抜いといてくれていいからさ。」

チャドがシーリアを見つめ、沈黙を破り口を開いた。

「馬鹿野郎!報酬なんて気にすんな、俺に任せとけよ。大体の場所なら分かるが、嬢ちゃん案内出来るかい?」

「はい!近くに行けば分かると思います。有難う御座います!」

チャドの言葉に胸を撫で下ろす。

「……有難う、チャド」

俺は心からの感謝を込めて、チャドの手を取った。もう心配はいらないだろう。チャドがいてくれて本当に良かった。

これで俺は次に進める。この世界でやるべき事に進んでいけるんだ。

読んでいただいた全ての方に感謝します。


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