第11話 共存の証明
分かってもらう、ただそれだけの戦い。
デイジーの攻撃を防ぐので精一杯だ。何も出来ない、何も見えない。
「道を開けろ。邪魔しなければ怪我しないぜ?」
「そっちこそ。もう帰ったらどうです?」
強がってはみたものの策は無い。二人を倒すことは不可能、逃げるなんてあり得ない。
今回も、ただでは済まないな。
「おじさん勝ち目ないよ、そんな事しても大怪我するだけだよ」
クレアにはただ騙されている憐れな男に見えているんだろう。
「大怪我しても止めますよ!体が動く限りね!」
経験の差がありすぎて信用されるのは難しいだろう。騒ぎに気付いてキー助が逃げてくれればいい。
ペチッ!という音がした直後足に激痛が走る。
「ングッ!」
デイジーの熱光線で何も見えないが、おそらくクレアのスリングショットだろう。
「コレ手加減するの難しいんだよね。怪我で済まなかったらゴメンね」
「キーッ!キキーッ!」
キー助の声がする、気づいているはずだ。みんなで逃げてくれ。
「助けに来るんじゃないのか?仲が良いんだろ?おっさん」
一体どんな顔で言っているんだ?表情が見えない事が不安を加速させる。
「なんでそんな必死なの?仲が良いってホントだとしても、それほど長く一緒にすごしてないでしょ。」
ペチッ!ゴムをはじく音。かろうじて弾を魔力で防ぐ。
「……短くても、家族だったから……ですかね!」
「冗談やめて、言葉も感情も分かんないのに。家族ごっこしてたのよ、おじさん」
家族ごっこ……か。みさきを失って家族のぬくもりを求めていたのかもな。
それでもいい、キー助やシーリアが俺の家族ごっこに付き合ってくれたんだ。
ごっこでもキー助が助けてくれた。あれが嘘なんて絶対に無い。
「いい加減あきらめろ。ゴブリンの為に死にたいのか?」
「そうかも知れないねえぇ!!」
止まることなく照射され続ける熱光線にもう魔力が持たないだろう。だがこの身体が焼かれても俺は逃げない。
「ガアアァァーーーッ!」
背後の声に振り返る。鉄兜のゴブリン、キー助のパパ。ボスゴブリンだ。
「驚いたな、本当に助けに来たのか?」
光線の勢いが弱くなる、狙いをボスゴブリンに変える気か。させない。
「ここは俺に任せてくれ!みんなを連れて逃げるんだ!」
ボスゴブリンが俺の肩に手を置き前へと出る。止めようとするが激痛に足が動いてくれない。
熱光線が止まる。やめてくれ、キー助のパパを奪うな。
「グルルルゥゥ……」
ボスゴブリンがゆっくりと兜を脱ぎ二人に近づく、手にはナイフが握られている。
「ダメだ!逃げてくれ……頼む!」
デイジーが右手をボスゴブリンへと向ける。クレアもスリングショットを構えた。
それらにたじろぐことなくボスゴブリンが俺と二人の間に立ち、持っていたナイフで自分の耳を切り離した。
「ゴアァァッ!!」
切り離した耳を握りしめ、片膝をつくボスゴブリン。
「なっ!?どうして……」
ボスゴブリンが自分の耳をデイジーに向かって差し出す。
「……参ったなコレは」
二人が手を下ろす。デイジーがボスゴブリンの耳をつまんで受け取る。
「分かった分かった!アタシらの負けだ。クレアもそれでいいだろ?」
「仕方ないわね、ソレ貸しなさい」
クレアが耳を受け取りボスゴブリンに近づく。
「ちょっとおじさん!このゴブリンに大人しくするように言ってよ」
足を引きずりながらボスゴブリンに歩み寄る。
「あぁ……ちょっと彼女に任せてじっとしていてくれ」
目を見つめ本質を見極める力に期待して言葉をかける。
クレアが耳を元あった場所にあてがい魔力を展開する。俺の空気の淀みでもデイジーの熱光線でもない。
優しい光がクレアの手のひらから溢れ出し、ボスゴブリンの耳元を照らしている。
これがクレアの特別な力、怪我の治療なのだろうか。
ボスゴブリンは片膝をついたまま、眠ったように目を閉じている。足が限界を迎えその場に腰を下ろす。
しばらく時間が経つ。ボスゴブリンを見つめる俺にデイジーが声をかける。
「心配すんなおっさん、クレアが治してくれる」
「このゴブリンはどうして、こんな事を?」
少し考えてデイジーが話し出した。
「……ゴブリン討伐の依頼は耳を証拠に持ち帰る事が有る。だから自分の耳を切ったんだろ」
治療が終わったのだろうか、クレアが話し出す。
「つまりこのゴブリンは仲間が人間に殺されるのを見ていた……その上で人間に自分の耳を差し出したのよ。おじさんを助ける為にね」
目から溢れる涙を拭う。年を取ると涙もろくなるな。ボスゴブリンを見ると切り離された耳が元の場所でピクピクと動いている。
「キィーー!キーキィー!」
キー助だ、他のゴブリンたちも居る。殺気立ち武器を持っている。
ボスゴブリンが立ち上がり俺を少し見た、その後すぐに鉄兜を被り仲間たちを見る。
「ガァッ!ガアォォッ!」
一瞬でゴブリンたちが大人しくなる。その後すぐにボスゴブリンは仲間を連れて帰ってしまった。
「キィー!!」
キー助だけが残り俺の元に駆け寄る、その小さな手には薬草が握られていた。思わずキー助を抱きしめる。
「はははっ!お前が呼んでくれたのか?有難うな、キー助」
よほど心配していたようだ。俺の笑顔を見てキー助の安堵した気持ちが伝わる。
「もう大丈夫だよキー助。心配すんな、ほらまた迷子になるぞ!」
薬草を受け取りキー助を見送る。何度も振り返るキー助に手を振る、アイツには助けられてばかりだな。
「……一体どうやってゴブリンをあそこまで信用させたんだ?」
デイジーが疑り深い目で俺を見る。
「城の衛兵に教わった本質を見極める力ですよ。召喚された者には誰にでも有る能力と聞きましたが」
しばらく考え込み呟くように言う。
「アレにそんな力は無いはずだが……」
「ごめんねおじさん、信じてあげられなくて。足見せて」
クレアが俺の足の治療を始める。見る見るうちに腫れが引いていく。
「凄いですねコレ、もうなんともない。有難う御座います」
「いえいえ、私たちが悪いんだから。デイジー、アンタも謝んなさいよ」
「あぁ、悪かったなおっさん」
悪びれる様子が無さ過ぎて思わず吹き出しそうになる。
足の怪我が治る、切り離された耳も元通りに。ハッと気づいた。
「クレアさん! あの……助けたい女の子がいるんです!」
俺の突然の大声に、二人が目を丸くした。
「もうすぐ、城から支給される金が届きます。報酬なら有るだけ出します! どうか、彼女を……シーリアを診てもらえませんか!」
クレアの治療の魔力があれば、シーリアの耳も治せるのではないか。 最悪の出会いだったはずの二人が今は希望の光に見えた。
俺は帰路につく道すがら、熱を帯びた声で、大切な家族の事を語り始めた。
読んでいただいた全ての方に感謝します。
災い転じて福となす。最悪を最高へと導けるのか。




