第10話 お引き取り願います
戦えば勝ち目のない同行者、信用の無い中年に二人を諦めさせる事が出来るでしょうか。
荷物を酒場に預けて三人で店を出る。安心しきったようにマスターが俺たちに手を振る。
軽く準備をして町の入り口に集まる事になった。とは言え準備する事など無い、入り口で待ちながら作戦を練ろう。
このまま一人でキー助たちを探そうか。いや、悪評が広まり今後の生活に支障が出るな。
見つからなければいいんだ、一度解散まで持ち込めばいいだけ。もしくは誤解が解ければいいんだが。
そういえば何故すぐに討伐となるんだ?まるで害獣のような扱いだが、俺のゴブリンの印象とかけ離れている。
いや今はそんな事を考える暇はない。
作戦がまとまらないまま無情にも二人が来てしまう。
「お待たせ!おじさん。私はクレアよろしくね!」
カーゴパンツの娘。腰に道具袋と、あれはスリングショットというものだろうか。
手には皮のフィンガーレスグローブをつけている。
「デイジーだ。早く行って終わらせようぜ」
ウェイトレス服の上に金属製の胸当て、すね当て、ガントレットをつけている。武器は見えないな。
着替える時間はあっただろうに、よっぽど急いでいるのか。こちらにとっては好都合だな。
「外山圭吾です。すみませんお二人とも。マスターには一人で大丈夫とは言ったんですが」
買い物帰りの中年男性だ。
三人で薬草採取場へと向かう、リヴェンの町と廃墟をつなぐ道から少しそれた森の奥だそうだ。
タイミングも位置関係からしてもキー助たちへとつながる。
「ちょっとデイジー!アンタまた店の服で行くの?」
クレアが言う、当然の指摘だろう。
「ん?アタシの服だろ、貰ったんだから」
「それ仕事の為に支給されてんのよ。いい加減に自分で服買いなさいよ」
「かわいいウェイトレスさんが普段から店の宣伝してんだろ。有難く思うべきだな」
そういう事ではない。
「アンタがしてんのは宣伝じゃなくて悪評を振りまいてんでしょ」
そういう事だ。
森に入る。薄暗く冷たい空気が不安を煽る。
歩けば歩くほどにキー助たちに近づいている気がする。今にも「キーッ!」と聞こえそうだ。
「お二人ともイサベル王女に召喚されたんですか?」
現地人と召喚された者は見た目では分からない。聞いておくべきだな。
「あぁ、そうだ。おっさんよりは随分先輩だがな」
言葉が鋭く尖っている。こんな危険な仕事を急に入れられては無理もないな。
召喚されたなら特別な力を持っているはず、デイジーの自信も納得がいく。
「もう何年も前だね私たち、おじさんはつい最近よね?」
「そうですね、まだ来たばかりで分からない事ばかりです」
そんなおっさんが一人でゴブリン討伐とか……我ながら粋がるなと恥じる。
じゃあハズレも知られているのか。この話題はやめておこう。
薬草採取場に着く。ゴブリンの姿は無い、とりあえず一安心だな。
「ははは……無駄足でしたかね。帰りますか」
「馬鹿いうな、ここから探すんだろう」
二人が痕跡を探す。キー助たちが帰っていった方向を必死に思い出し別方向に誘導する。
「こっちですかね、摘まれた薬草が落ちてます」
「あ、ホントだ。結構な数居たみたいね、あちこち摘まれてる」
「……ゴブリンが薬草を?」
デイジーが俺を睨む。疑われている?いや疑われた方が良いのか。キー助たちとのつながりを信じてもらえれば良い。
「なんか薬草を持って帰るなんて人間みたいですね。話せば分かるゴブリンたちかも」
「……ふざけてないで探せ」
必要最低限の言葉で希望が絶たれる。行先の決定権は明らかに二人が握っている、今のところ俺には誘導しか出来ない。
だが、俺は絶対に諦めない。再び歩き出す二人の背中を見ながら、俺も歩き出した。
採取場を離れるともう道らしい道は無い。木々の間を進む、どこまでも続く同じ景色に方向感覚を失う。
二人の慣れた足取りに置いて行かれそうになる。遭難してしまえばゴブリンどころではなくなるだろうか。
俺だけはぐれても二人が止まるとは思えないな。
「人間と仲がいいゴブリンって居ないんですか?」
二人に疑問をぶつける、目撃から即討伐には違和感が拭えない。
「さぁ……少なくともアラステリア王国には居ないんじゃない?」
「あぁ、ペットや見世物にしてもゴブリンは聞いた事がないな」
信じられない(実は俺ゴブリンと仲良いんですよ)と言って信用されるだろうか。
「無駄口叩いてないで探すんだな。おっさん」
「キィーッ……」
かすかに聞こえた声に息をのむ。間違いない、キー助だ。二人に聞かれたか?
「あっちだね、行こう!」
そう言うと同時にクレアが走り出す。
「はぐれんなよ、おっさん」
デイジーもクレアに続く。絶対にさせない。全力で走る。
クレアが止まり様子を見ている。視線の先には数体のゴブリン。見覚えがある腰布、キー助も居る。
「静かに……少ないね。いずれ仲間と合流するはずよ」
「分かってる、何度も呼ばれちゃたまらんからな。ここで根絶やしだ」
最早下手な誘導は出来ない。呼吸を整え二人の前に飛び出す。
「待ってください!話を聞いてくれ!」
二人が突然の俺の行動に驚く。
「ちょっとおじさん、聞こえなかった?静かにって言ったよね?」
クレアが明らかに怒っている。
「このおっさん……初めからなんかおかしい。言ってみろよ」
「実は俺、ゴブリンと仲良いんですよ。一緒に暮らしてましたし」
「馬鹿言わないで!それ本当だとしても、おじさんが勘違いしてるだけよ」
「まぁそんなところだろうな、利用されただけだ」
違う絶対に。キー助は俺やシーリアの為に必死に助けを呼んでいた。
「それだけか?後を追うぞ」
デイジーが動き出す。両手を広げ進路を塞ぐ。今後の評判などどうでもいい、今は二人を止める。
「この先は行かせません。帰ってください」
二人が顔を見合わせる、呆れたようにクレアが言う。
「もうゴブリンなんかより、このおじさんなんとかしないとじゃない?」
「あぁ、少し痛い目見た方が良さそうだ」
デイジーが右手を前へと突き出す。召喚された者の特別な力に不安がよぎる。だが引く訳にはいかない。
魔力による身の守りを展開する。
それと同時に目の前に激しい光が飛び散る。デイジーから何かが俺に向かって照射され続けている。
熱風が顔を焼き目を開けるのもやっとだ。バチバチと音を立てて魔力が削られていくのを感じる。
これがハズレではない力なのか。
読んでいただいた全ての方に感謝します。
始まってしまった戦い。圧倒的な力の差、しかも相手は二人。




