異世界の新聞記事
むしゃくしゃして書いた。
悪ノリして書ければ何でもよかった。
特に反省はしていない。
王国歴一〇六七年、水の月、八日の記事より抜粋
『魔王軍の陰謀か? 勇者パーティ三人が死亡』
水の月八日夜、プルメリア王国の城下町アランの宿屋で男性一人、女性二人が死亡する事件が発生した。死亡したのは、戦士アルガスさん(二八)、僧侶リンさん(二六)、魔法使いマリアさん(二五)の三人。目撃者の話によると、三人は食堂で夕食を摂っている最中に突然苦しみだしたという。三人は直ちに同町の医療所へ搬送されたが、二時間後に死亡が確認された。王国憲兵隊は、何らかの毒物が使用された可能性があるとして調査を進めている。
死亡した三人は魔王討伐のためのパーティに所属。つい先日もウェストファリア王国を荒らしていた魔獣バジリスクを討伐し、勲章を授与されたばかりだった。アルガス氏は弊紙のインタビューにて「あとは魔王を倒すだけです。やってみせますよ」と魔王討伐への意欲を示していた。有力なパーティだっただけに人々の動揺は大きく、国王は三人の死を悼むとともに、民衆の安寧のために何らかの方策を打ち出すことを宣言している。
なお、同パーティのリーダーを務めていた勇者ハリス氏は現在行方不明となっており、その安否が懸念されている。憲兵隊当局は総力を挙げて捜索を行う方針。
王国歴一○六七年、水の月、一〇日の記事より抜粋
『それでも僕はやってない? 魔王が声明を発表』
八日に勇者パーティのメンバー三人が殺害された事件で、魔王ゴラン容疑者が声明を発表した。声明の中でゴラン容疑者は「直接戦っても負けはしないのだから、毒殺などという卑怯な手は使わない」と強く主張しており、容疑を否認している。
しかし一方で、専門家は「勇者のパーティは豊富な魔獣討伐の経験から、魔王を上回る力を持っていた。直接対決を恐れた魔王が毒による暗殺を企てたとしても不思議はない」と分析。憲兵隊当局は引き続きゴラン氏を容疑者としながら、慎重に捜査を進める方針。また、事件当夜に勇者パーティに供されたスープからは猛毒が検出されており、当局は毒の入手経路についても並行して調査する方針としている。
なお、依然不明となっている勇者ハリス氏の行方について、ゴラン容疑者は「知るわけがない。田舎に逃げたのではないか」とコメント。優位な力関係にあったことを改めて強調した。
『読者からのお便りコーナー』
わたしはコーコ村にすんでいます。六さいです。
まえに村のそとであそんでいるときに、まじゅうにたべられそうになりました。そのときにたすけてくれたのがゆう者のおにいちゃんです。わたしははじめゆう者のおにいちゃんのことをおじさんと言いましたが、おにいちゃんはわたしのあたまをなでて「おじさんじゃないよ、おにいちゃんだよ」と言いました。わたしがまちがえたのにおこられなくて、とってもやさしい人だとおもいました。
おかあさんに、ゆう者のおにいちゃんのおともだちがいなくなってしまったとききました。おかあさんは、それはま王という人のせいだと言っていました。ま王さんはどうしてそんないやなことをするのでしょう。おにいちゃんがかわいそうです。
わたしは、ま王さんにおにいちゃんにあやまってほしいとおもいます。それで、もうひどいことをするのはやめてほしいとおもいます。
王国歴一○六七年、水の月、一三日の記事より抜粋
『不可解。毒物の入手経路は?』
八日に発生した勇者パーティ毒殺事件で、憲兵隊当局は一二日夜に会見を開き、事件に使用された毒物の分析結果を発表した。使用された毒物は魔獣バジリスクの体内で生成される石化毒で、致死量を超えて摂取すると、全身が石のように固まって死に至る猛毒。ただし、バジリスクは非常に凶暴な魔獣であり、その体内から毒物を入手するのは困難を極めるとのこと。
これに対して魔王ゴラン容疑者は、「バジリスクに近づくなど、そんな恐ろしいことができるわけがない」とコメント。これに対して、勇者一行はウェストファリア王国にてバジリスクを討伐した経験を持つ。このことから、ゴラン容疑者の「直接対決でも負けないから毒殺しない」という主張は今回のコメントと矛盾しているとの声も出ている。
当局は、ゴラン容疑者が毒物を入手できた可能性について捜査を進めている。
王国歴一○六七年、水の月、一六日の記事より抜粋
『急展開! 容疑者は勇者?』
憲兵隊当局は一五日夜、緊急で会見を開き、勇者パーティ毒殺犯を同パーティに所属する勇者ハリス容疑者に断定すると発表した。これに伴い、当局は魔王ゴラン氏に対して正式に謝罪。ゴラン氏の容疑が晴れたことを明言した。
決め手は毒物の入手経路だった。魔獣バジリスクは個体数が少なく、また魔王といえども容易には近づけないほど凶暴であるため、当局はゴラン氏には毒物の入手は不可能だったと判断。毒物を入手できたのはバジリスクを討伐した勇者パーティだけであり、さらに事件当夜の食事にそれを混入できたのはハリス容疑者のみであるという結論に至った。
当局は全国指名手配も視野に入れ、殺人容疑でハリス容疑者を捜索する方針。
王国歴一○六七年、水の月、一七日の記事より抜粋
『「勇者のままでいたかった」。ハリス容疑者が殺害を自供』
八日に発生した勇者パーティ毒殺事件で、憲兵隊当局は一七日未明、コーコ村の民家に潜伏していたハリス容疑者を殺人の容疑で逮捕したと発表した。ハリス容疑者は「魔王軍に追われている。しばらくかくまってほしい」などと言って、村々を渡り歩いていたという。ハリス容疑者は容疑を大筋で認めている。
動機についてハリス容疑者は「魔王を倒したら勇者として良い思いをできなくなると思った。仲間たちは魔王を倒すことばかり考えており、殺すしかないと思った」と語っている。ハリス容疑者は今年で三三歳。まだ二〇代だった仲間たちへの嫉妬心も口にしているという。
一時容疑者と目された魔王ゴラン氏は「複雑な心境。戦ってもどうせ私が勝つのだから、できれば直接対決したかった」と胸のうちを語った。
今回の事件について、専門家は次のように語る。
「この事件の背景には、近年の雇用状況の悪化があると思う。魔王を倒したとしても、この不況ではその後一生遊んで暮らせる保証はない。ましてハリス容疑者はもう三三歳とのこと、再就職に不安があって当然だろう。国王には、一刻も早く景気回復への対策を取ってほしい」
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