第二十五話:カーバンクルとアレルギーの話 (2/3)
「よし、任せとけ。今日は、君の体の中で鳴り響いてる警報を、優しく止めてやる!世界で一番美味くて、美しい、特別なシチューでな!」
俺は厨房に立つと、まず、大きな深鍋を火にかけた。そして、棚の奥から、今日の主役となる、色とりどりの食材たちを、次々と取り出していく。
「坊主、よく見とけよ。こいつらが、あんたの体の中で暴れてる騎士団を、優しくなだめてくれる、平和の使者だ」
俺はまな板の上に、いくつかの不思議な野菜を並べてみせた。
「まずは体の炎症を抑える**『陽だまり生姜』と『黄金キノコ』の粉末**。次に見張り番の暴走をなだめる**『涙知らず玉ねぎ』と『月蜜リンゴ』。そして仕上げは、ヒスタミンを分解するのを助ける、色とりどりの『七彩パプリカ』**だ!」
そう言って、俺はまず涙知らず玉ねぎをリズミカルに刻み、バターを溶かした深鍋で、じっくりと炒めていく。普通の玉ねぎと違って目に染みないが、その甘い香りは格別だ。
カウンターの向こうで、カーバンクルが、その香りを吸い込むように、静かに鼻をひくつかせているのが分かった。
《なんだか……心が、穏やかになるような……香り……》
「ああ。こいつは、ただのシチューじゃねえ。飲む、お守りみてえなもんだ」
玉ねぎが飴色になったら、陽だまり生姜と黄金キノコの粉末、そして食べやすい大きさに切った鶏肉を加えて、さらに炒め合わせていく。スパイスの香ばしい香りが、玉ねぎの甘い香りと混じり合い、店の中に、食欲をそそる匂いが満ちていった。
具材に火が通ったら、野菜の出汁と、皮を剥いてすりおろした月蜜リンゴを加え、コトコトと煮込んでいく。リンゴの自然な甘みと酸味が、味に深みと、そして、ヒスタミンの暴走を抑える力を与えてくれる。
最後に、赤、黄、緑と、色とりどりの七彩パプリカを加え、牛乳と、隠し味のチーズで全体をまとめ、優しく煮込む。
スパイスの刺激的な香り、野菜の優しい甘み、そして乳製品のまろやかな香りが次々と立ち上り、混じり合っていく。それはまさしく香りの万華鏡だ。店に満ちたその匂いは、カーバンクルの疲れ果てた心を、そっと包み込んでいくようだった。
「お待ちどう。輝きを取り戻す、癒やしのレインボーシチューだ」
湯気の立つ温かいシチューを、木の器に注いで彼の前にそっと置く。白いスープの上で、赤、黄、緑のパプリカが鮮やかな虹を描いている。
その希望の色が、光を失っていたカーバンクルの瞳に、キラリと映り込んだ。
カーバンクルは、まるで祈るように、震える手でスプーンを握りしめた。シチューの虹を壊さないよう慎重にすくい上げ、おずおずと、その一口を口に運ぶ。
ゴクリ、と。彼が息を呑む音が、静かな店にやけに大きく響いた。
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