第二十四話:水晶ゴーレムと結晶の話(1/3)
ナーガの姫君が、誇り高き虹色の輝きを取り戻してから数日。森は深い雪に覆われ、世界は白と静寂に包まれていた。俺、仏田武ことぶっさんは、店の石窯でじっくりと煮込んだ根菜のシチューを味見しながら、窓の外の雪景色を眺めていた。
「静かでいいもんだ。たまには、こうして一人で静かに過ごすのも悪くねえか」
そんなことを考えていた、雪がしんしんと降り積もる午後のことだった。
カランコロン、と、まるでシャンデリアの水晶が触れ合うような、硬質で、しかしどこか儚げなドアの音がした。
見ると、そこに、一人の少女が立っていた。
彼女の体は、無数の小さな水晶の結晶でできていた。髪も、肌も、その全てが、光を浴びて、ダイヤモンドダストのようにキラキラと輝いている。その姿は、もはや生き物というより、高名な魔法使いが作り上げた、最高傑作の宝飾品のようだった。
だが、その神々しいほどの美しさとは裏腹に、彼女の表情は、深い恐怖に歪んでいた。彼女は、自分の手を見つめ、その体が、ほんのわずかに、ミシリ、と音を立てて大きくなったことに、絶望しているようだった。
「いらっしゃい。ひどい雪だな。まあ、そんなところに立ってねえで、中に入りな」
俺が声をかけると、水晶の少女は、ビクッと体を震わせ、まるで自分の体が崩れてしまうのを恐れるかのように、ゆっくりと店の中に入ってきた。
《あ、あの……。わたくし、このままでは、怪物になってしまいます……》
脳内に響いてきたのは、砕け散りそうなガラス細工のような、震える声だった。
《わたくしは、この小さな姿のままでいたいの。でも、体に魔力を取り込むたびに、この水晶の体が、勝手に、少しずつ、大きくなってしまうのです…。このまま成長が続けば、いずれ、この繊-細な姿は失われ、ただの巨大な岩塊になってしまう…。それが、怖くて、怖くて…》
なるほど。コントロールできない、「過剰な成長」か。美しくありたいという願いと、怪物になってしまうかもしれないという恐怖に、苛まれているんだな。
俺は、彼女の体を、じっくりと観察する。
(この子の体は、文字通り、結晶の塊だ。つまり、彼女の成長は、科学で言うところの『結晶成長』と同じ原理のはずだ。ならば、その成長を止める方法も、科学の中にあるはずだ)
「嬢ちゃん、あんたのその悩み、よく分かった。あんたの体は、美しい宝石と同じだ。そして、宝石の輝きを保つには、正しい手入れが必要なのさ」
《ていれ…ですって…?》
「ああ。結晶ってのはな、原子や分子が、規則正しく、手を取り合って並ぶことで、どんどん大きくなっていく。だが、その結晶の表面に、特定の『邪魔者』…つまり、不純物がくっつくと、それ以上、規則正しく並べなくなって、成長が止まるんだ。その邪魔者のことを、科学じゃ『阻害剤』って言う」
俺の説明に、水晶の少女は、呆然としていた。
「よし、任せとけ」
俺はニヤリと笑うと、自分の体に怯える美しい少女に、力強く宣言した。
「今日は、君に、君自身の体の『取扱説明書』を教えてやる!世界で一番美しくて、美味い、『食べる宝石』でな!」
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