第二十三話:ナーガの姫君と美肌スープ(3/3)
ナーガの姫君は、目の前に置かれた、白く輝くスープを、ただ呆然と見つめていた。その瞳には、失いかけていた誇りの光が、再び灯り始めているようだった。
「さあ、まずは、このスープからだ。君の体に、最高の絹糸を、直接届けてやる」
俺が促すと、彼女は意を決したように、ゆっくりとスプーンを手に取った。そして、とろりとした乳白色のスープを、おそるおそる、その一口を口に運んだ。
鶏の優しい旨味と、香味野菜の甘みが溶け込んだ、濃厚なコラーゲンスープ。それが、彼女の乾いた体に、まるで恵みの雨のように、じんわりと染み渡っていく。
《おいしい……。それに、体が、内側から潤っていくような……》
一口、また一口とスープを飲み進め、合間にビタミンCたっぷりのサラダを食べる。最高の「絹糸」と、最高の「職人」が、彼女の体の中で、出会ったのだ。
失われていた潤いと弾力が、体の細胞の一つ一つに、急速に満ちていくのが分かる。
彼女は、夢中で、しかしその仕草はどこまでも上品に、スープとサラダを全て綺麗に平らげた。
食事が終わる頃には、彼女のくすんでいた肌に、内側から発光するような、健康的な艶が戻っていた。
そして、奇跡は起きた。
彼女をずっと苦しめていた、まだらにこびりついていた古い皮が、まるで薄い絹のベールのように、するり、と、音もなく綺麗に剥がれ落ちたのだ。
そして、その下から現れたのは……今までわたくしが見たこともないほど、美しく、虹色に輝く、新しい鱗だった。一枚一枚が、まるで宝石のように光を反射し、彼女が身じろぎするたびに、キラキラと、眩いばかりの輝きを放つ。
《あ……!わたくしの、鱗が……!なんて、美しい……!》
彼女は、信じられないといった様子で、自分の生まれ変わった体を見つめている。そして、その瞳から、大粒の涙が、ぽろぽろとこぼれ落ちた。それは、もう絶望の涙ではない。失われた誇りを、美しさを、取り戻した、歓喜の涙だった。
「言ったろ? あんたの体は、最高の絹織物を作れるんだ。ただ、材料が足りなかっただけさ」
俺が言うと、彼女は俺に向き直ると、深く、そして、今までで一番美しい礼をした。
《このご恩は、生涯忘れません。あなた様は、わたくしの輝きを、そして、ナーガとしての誇りを、取り戻してくださいました》
「はは、気にすんな。腹が減ったら、美味いもんを食う。綺麗になりたかったら、体にいいもんを食う。当たり前のことだろ?」
自信を取り戻した彼女は、もう来た時のような弱々しい姿ではなかった。その背筋はピンと伸び、その瞳は、高貴な姫君としての、揺るぎない輝きに満ちていた。
彼女は、もう一度深々と頭を下げると、誇り高く、そして美しい姿で、静かに店を後にしていく。
「やれやれ、今日の客も、随分とべっぴんさんになって帰っていったな」
俺は、空になったスープ皿を片付けながら、一人、静かにつぶやいた。
美しさも、結局は、食い物が作る。この世界の真理は、どこまでもシンプルで、面白い。
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