表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/88

第三話:ぷるぷるスライムと目に見えない骨(1/3)

グリフォンが店に来てから、さらに一週間が過ぎた。

おかげさまで、屋根の修理はまだ終わっていない。まあ、急ぐ旅でもなし、のんびりやるとしよう。俺、仏田武ことぶっさんは、そんなことを考えながら床の雑巾がけをしていた。


その時だった。

店の木のドアの下、ほんの数ミリの隙間から、何かが「じゅわ〜…」っと染み出してくるのが見えた。


「ん? 雨漏りか? いや、天気は良いしな……」


不思議に思って見ていると、その青く半透明な液体は、ゆっくりと床の上で一つの水たまりを形成していく。そして、その水たまりの中心が、わずかに盛り上がった。


(……スライムか!)


ファンタジー世界ではおなじみのモンスター。だが、俺が知っているゲームのスライムは、もっとこう、ぷるんとした綺麗な球体だったはずだ。目の前のこいつは、まるで床にこぼれたゼリーのように、だらしなく広がってしまっている。


やがて、そのスライムから、弱々しい心の声が俺の脳内に届いた。


《あ、あの……ここ……しょくどう……ですか……?》


「ああ、そうだが……。おチビさん、どうしたんだ? そんなところで溶けちまったみたいになって」


俺が話しかけると、スライムは申し訳なさそうに、体をわずかに震わせた。


《ご、ごめんなさい……。ちゃんと、ドアから入りたかったんだけど……体がゆるくて、形が保てなくて……。気づいたら、隙間から……じゅわ〜って……》


声からして、まだ子供のようだ。名前はプルンというらしい。


俺は雑巾を置くと、そのスライムのそばにしゃがみ込んだ。プルンの体は、確かに張りがなく、表面の光沢も弱い。元気なスライム特有の「ぷるぷる感」が失われている。


「なるほどな。浜辺に打ち上げられたクラゲみたいになっちまってるな」


《くらげ……?》


「ああ。俺がいた世界にいた、海に住んでる生き物だ。そいつの体は95%以上が水でできててな。陸に上がると、自分の体の水分を支えきれなくて、お前さんみたいに溶けたみたいになっちまうんだ」


俺の説明に、プルンは悲しそうに体を揺らした。


《僕も……それと、同じ……? もう、仲間みたいに、ぼよんって跳ねられないのかな……》


その声は、今にも消えてしまいそうなくらい、か細かった。

仲間たちと同じように跳ね回れないことが、彼にとっては何よりも辛いのだろう。


俺は、そんな健気なスライムの頭(らしき場所)を、そっと指で撫でた。


「大丈夫だ。心配するな」


俺はニヤリと笑って、プルンに力強く言った。


「お前さんの体に、もう一度、ぷるんぷるんの骨格を作ってやる。俺に任せとけ」


《ほ、骨格……?》


「ああ、目には見えない、魔法みたいな骨格だ。とびきり美味いデザートでな!」


俺は腕まくりをして、厨房へと向かった。小さなスライムの、大きな悩みを解決するために。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ