幕間:心が躍るメロディー
俺の音楽は、死んじまったんだと、そう思ってた。
この葦笛を吹けば、森の動物たちは陽気に踊りだし、木々の葉っぱでさえ、楽しそうにリズムを刻む。それが、俺の誇りだった。俺の、生きる意味だった。
なのに、いつからだろう。
この笛から生まれるのは、聞いているこっちまで気が滅入るような、悲しくて、沈んだ音色ばかり。楽しい曲を作ろうとすればするほど、指はこわばり、心は鉛のように重くなる。心が、躍らないんだ。
音楽が楽しくない。
その事実は、俺の世界から、すべての色と音を奪い去った。
その日も、俺は重い足を引きずって、森をさまよっていた。そんな時、風の噂で、あの食堂のことを聞いたんだ。「どんな悩みも解決する」だなんて、馬鹿げてる。俺のこの、魂の枯渇が、飯なんかでどうにかなるもんか。そう思いながらも、何かにすがりたくて、俺は、その店のドアを開けた。
店の主、ぶっさんと名乗る男は、俺の淀んだ目を見るなり、言ったんだ。「あんたの不調は、腹から来てる」って。
腹? 何を言ってるんだ、こいつは。俺が苦しいのは、心なんだ。そう思った。
でも、目の前に出された飯は、今まで見たこともない、不思議な力が宿っているようだった。
湯気の立つ味噌汁、香ばしく焼かれた魚、そして、色とりどりの漬物。
一口、味噌汁をすする。その瞬間、冷え切っていた腹の底に、じんわりと、温かい火が灯るのを感じた。
夢中で食べた。
一口食べるごとに、腹の中が、満たされて、整っていくのが分かった。
そして、不思議なことに、腹が満たされると、あれほど頭にかかっていた深い霧が、すーっと晴れていくのが分かったんだ。
食事が終わる頃には、俺の心は、嘘みたいに軽くなっていた。
気づけば、俺は、重荷だったはずの葦笛を、そっと手にしていた。
そして、唇を寄せると、そこから溢れ出したのは…俺自身が、忘れてしまっていた、陽気で、軽やかで、心が勝手に踊りだすような、楽しいメロディーだった。
涙が、出た。
ああ、これだ。これが、俺の音楽だ。
ぶっさん様、ありがとう。
あなたの作ってくれた、あの温かい飯は、俺の腹だけじゃなく、死んじまってたはずの、俺の魂まで、満タンにしてくれたぜ。
さあ、森に帰ろう。そして、最高の音楽で、森の仲間たちを、夜が明けるまで踊らせてやるんだ!
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。




