第二十一話:ハーピィと静寂のスープ(2/3)
「よし、任せとけ。今日は、君の荒ぶる神経に、最高の休息を与えてやる。世界で一番、静かで、穏やかなスープでな!」
俺は厨房に立つと、まず、店の棚から、秋の間に森で採って乾燥させておいた、数種類のきのこを取り出した。
「嬢ちゃん、よく見とけよ。あんたのその、張り詰めちまった神経の糸を、優しく緩めてくれる、魔法の食材だ」
俺は、きのこをぬるま湯で戻しながら、涙を拭う少女に語りかける。
「このきのこや、これから隠し味に使う味噌みてえな発酵食品にはな、『GABA』っていう、特別なアミノ酸がたっぷり含まれてるんだ。こいつが、あんたの頭の中で鳴り響いてる警報を、静かに止めてくれる。興奮した神経を落ち着かせて、心と体を、深いリラックス状態に導いてくれるんだぜ」
俺はそう説明しながら、戻したきのこを細かく刻み、バターを溶かした深鍋で、玉ねぎと一緒にじっくりと炒めていく。きのこの香ばしい香りと、玉ねぎの甘い香りが、店の中に優しく満ちていった。
カウンターの向こうで、耳栓をしたハーピィの少女が、その香りを吸い込むように、静かに鼻をひくつかせているのが分かった。
《なんだか……心が、穏やかになるような……香り……》
「ああ。こいつは、ただのスープじゃねえ。飲む、瞑想みてえなもんだ」
きのこが十分に炒まったら、野菜だけで取った、優しい味の出汁を注ぎ、コトコトと煮込んでいく。そして、滑らかになるまでミキサーにかけ、もう一度鍋に戻す。そこに、牛乳と、隠し味として少量-の白味噌を溶き入れて、コクと、さらなるGABAを加えていく。
店の中は、もはや香りの聖域だった。きのこの土の香りと、牛乳の優しい甘みが混じり合い、彼女の疲れ果てた心を、そっと包み込むようだった。
「お待ちどう。静寂の森のきのこポタージュだ」
俺は、湯気の立つ温かいスープを、木の器に注ぎ、彼女の前にそっと置いた。仕上げに、パセリを少しだけ散らす。
「耳栓で、外の世界は静かになった。今度は、このスープで、君の内側の世界を、静かにしてやるんだ。ゆっくり、味わってごらん」
彼女は、そのスープを、まるで壊れ物を扱うかのように、慎重にスプーンですくい上げると、おずおずと、その一口を口に運んだ。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。




