表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気まぐれ食堂ねこまんま〜動物好きおっさんの異世界飯テロ日誌〜  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

80/300

幕間:毒の涙と初めての味

わたくしの存在は、呪いそのものでした。

この体から生まれるもの全てが、世界を汚し、命を枯らす。吐息は空気を淀ませ、涙は大地を焼き、そして、唾液は、わたくしが口にするもの全てを、どろりとした腐敗物に変えてしまう。


お腹は空くのです。生きているのですから。

けれど、食事をすることは、絶望を味わうことと同義でした。森で採れた木の実も、狩人が仕留め損ねた獣の肉も、口に入れた瞬間、その命の味は消え失せ、ただの不快な塊と化す。


美味しい、と感じてみたい。

温かいものを、温かいまま、お腹に入れたい。

そんな、誰かにとっては当たり前のことが、わたくしにとっては、決して叶わぬ夢でした。誰かを傷つけぬよう、世界を汚さぬよう、ただ息を潜めて、消えていく日を待つだけの、孤独な日々。


そんな時、風の噂で耳にしたのです。森の奥に、どんな悩みも解決するという、不思議な料理人がいると。

わたくしのこの呪いが、料理でどうにかなるはずもない。そう思いながらも、何かにすがりたい一心で、そのお店の扉を開きました。


お店の主、ぶっさん様は、わたくしの姿を見ても、恐れませんでした。それどころか、わたくしの絶望的な話を、まるで医者が患者を診るように、静かに、真摯に聞いてくれたのです。そして、わたくしの呪いを、不思議な言葉で解き明かしてみせました。「中和」と「吸着」。それは、魔法ではなく、「ことわり」の言葉でした。


彼が作ってくれたのは、わたくしの絶望をそのまま形にしたかのような、真っ黒なハンバーガーでした。

差し出されたそれを前に、わたくしは震えていました。期待と、そして、また裏切られることへの恐怖で。


意を決して、一口、かぶりつきました。

そして、わたくしの世界は、変わったのです。


腐らない。

いつもわたくしを苛む、あの不快な味がしない。

代わりに口の中に広がったのは…肉の旨味、野菜の甘み、ソースの複雑な味わい。温かくて、しょっぱくて、甘くて、少しだけ酸っぱくて…これが、「美味しい」ということ…!


涙が、溢れて止まりませんでした。

でも、その涙は、もう大地を焼く毒の涙ではありませんでした。生まれて初めて、当たり前の幸せを知った、ただの、温かい涙でした。


ぶっさん様、ありがとうございます。

あなたの作ってくれた、あの黒いハンバーガーは、わたくしの呪いを解いたわけではありません。けれど、その呪いと、共に生きていくための、希望という名の光をくれました。


もらった黒い粉のお守りを、大切に懐にしまい、わたくしは森へと帰ります。

もう、ただ消える日を待つだけの、孤独な怪物ではありません。

明日、何を「美味しく」食べようかと、考えることができる、ただの、一人の若者として。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ