第二十話:バジリスクと中和の話(2/3)
「今日は、君の体に、最高の安全装置を付けてやる。君が、生まれて初めて、安心して『美味しい』と感じられる、特別な料理でな!」
俺は厨房に立つと、まず、店の奥から、ある特別な粉を取り出した。それは、竹を高温で焼いて作った、真っ黒な、きめ細かい粉末…「食用炭」だ。
「坊主、よく見とけよ。こいつが、あんたの毒を無力化する、最高の消防士だ」
俺は、ボウルに入れた小麦粉に、その黒い炭の粉をたっぷりと混ぜ込んでいく。純白だった小麦粉が、みるみるうちに、夜の闇のように、漆黒に染まっていく。
《こ、炭…ですって…? そんなもの、食べられるのですか…?》
カウンターの向こうで、バジリスクの若者が、信じられないといった声で尋ねる。
「ああ。こいつは、ただの燃えカスじゃねえ。その表面にはな、目に見えねえくらい小さな穴が無数に空いてるんだ。その穴が、あんたの唾液に含まれる毒の成分を、まるで磁石みてえに、根こそぎ吸着してくれる。体に吸収される前に、無力化しちまうってわけさ」
俺はそう説明しながら、漆黒の生地をこね、丸く成形し、パンの形に整えていく。それを、石窯に入れて、じっくりと焼き上げる。
「バンズだけじゃねえ。中身も、特別製だ」
俺は、新鮮なひき肉に、刻んだ玉ねぎや香辛料を加えて、パティを作る。そして、ソースには、一工夫加える。ほうれん草をさっと茹でて、ペースト状にし、マヨネーズと混ぜ合わせる。
「あんたの毒が、もし酸性なら、このほうれん草のソースが、アルカリ性の力で優しく『中和』してくれるはずだ。吸着と中和、二段構えの安全装置ってわけだな」
やがて、石窯から、世にも奇妙な、真っ黒なバンズが焼き上がった。見た目は不気味だが、小麦の香ばしい匂いが、ふわりと立ち上る。
俺は、その黒いバンズに、焼き立てのジューシーなパティ、新鮮な野菜、そして特製の緑色のソースを挟んでいく。
「お待ちどう。漆黒のデトックス・バーガーだ」
俺は、完成したハンバーガーを、厚手の革手袋をはめたまま、トングを使って、彼の前にそっと置いた。決して、素手では触れない。
バジリスクの若者は、目の前に置かれた、真っ黒で、少しだけ緑色がのぞく、奇妙な食べ物を、ただ呆然と見つめていた。
そのフードの奥で、彼の瞳が、期待と、そして長年の諦めを覆すほどの、強い希望に揺れているのが分かった。
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