幕間:消えかけの光と魂のスープ
寒かった。
ただ、ひたすらに、寒かった。
僕の体は、光でできている。でも、その光が、世界の寒さに負けて、どんどん小さくなっていくのが分かった。僕の光が、世界から消えていく感覚。それは、僕という存在そのものが、いなくなってしまう恐怖だった。
僕たち鬼火は、湿った土から湧き出る、特別な気を吸って生きている。でも、冬が来て、大地が凍りつくと、その気はぱったりと途絶えてしまう。燃料がなくなったランプのように、僕の光は、ただ消えるのを待つだけだった。
その日も、僕は冷たい木枯らしに弄ばれ、枯れ葉のように森をさまよっていた。もうダメだ、ここで消えちゃうんだ。そう思った時、ふわりと、今まで嗅いだことのない、不思議な匂いがしてきたんだ。温かくて、優しくて、僕の消えかけの魂が「あっちへ行け」と叫んでいるような、そんな匂い。僕は、最後の力を振り絞って、その匂いのする方へ、転がるように飛んでいった。
たどり着いたのは、一軒の食堂だった。
お店の主、ぶっさんと名乗る人は、僕のことを見ても、驚きもせず、ただ優しく、僕の魂の燃料が足りていないんだと教えてくれた。「リン」という、僕の光の源になるものの名前を、初めて知った。
彼が作ってくれたのは、「とん汁」という、不思議な料理だった。
僕は、食べることはできない。でも、彼が言ったんだ。「その湯気を、腹一杯吸い込むんだ」って。
お椀から立ち上る湯気に、僕は、おそるおそる、光の体を近づけた。
そして、それを吸い込んだ瞬間、僕の中で、奇跡が起きた。
それは、ただの水蒸気じゃなかった。命の味がした。
豚肉と、大豆と、たくさんの野菜の力が溶け込んだ、温かいエネルギーの塊。それが、僕の冷え切った魂の芯に、直接届いてくる。
僕の青白い光の中心から、まるで小さな太陽が昇るように、温かいオレンジ色の光が、じわじわと広がっていく。
寒い。寒くない。温かい。ううん、熱い!
力が、体の奥から、どんどん湧いてくる!
気づけば、僕の光は、前よりもずっと大きく、力強く燃えていた。
もう、冬の闇は怖くない。木枯らしに、吹き消されたりしない。
ぶっさん様、ありがとう。
あなたの作ってくれた、あの温かいスープは、僕の体に、春まで燃え続ける、最高の燃料をくれました。
僕は、もらった炒り大豆を大切に抱えて、店を飛び出した。
僕は、もう消えかけの光じゃない。この暗い冬の森を照らす、一つの、温かい光なんだ。
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