表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気まぐれ食堂ねこまんま〜動物好きおっさんの異世界飯テロ日誌〜  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

71/300

第十八話:仔竜とエネルギー貯蔵の話 (3/3)

やがて、石窯の中から、パンが焼ける香ばしい匂いと、シチューが煮詰まる濃厚な香りが混じり合った、極上の香りが漂ってきた。

俺は、分厚い革の手袋をはめ、石窯から、熱々の壺を取り出す。

パイ生地の蓋は、こんがりとしたキツネ色に膨らみ、その表面はバターの輝きでつやつやと光っていた。蓋の隙間からは、中のシチューがぐつぐりと煮える、心地よい音が聞こえてくる。


「お待ちどう。熱いから、気をつけて食えよ」


俺は、その壺を、仔竜の前にそっと置いた。

彼は、目の前から立ち上る、圧倒的な熱気と、今まで嗅いだことのない、複雑で、力強い香りに、ただただ、ゴクリと喉を鳴らす。


「さあ、そのパイの蓋を、スプーンで崩して、中のシチューと一緒に食うんだ。それが、一番美味い食い方だ」


俺が促すと、仔竜は意を決したように、小さなスプーンを手に取った。そして、ぷっくりと膨らんだパイ生地の蓋に、そっとスプーンを突き立てる。


サクッ…!


軽快な音と共にパイ生地が崩れると、その下から、湯気と共に、肉と木の実が溶け込んだ、濃厚なシチューの香りが、一気に溢れ出した。


彼は、そのパイ生地とシチューを一緒にすくい、おずおずと、その一口を口に運んだ。

その瞬間、彼の大きな瞳が、驚きと、そして、今まで彼がしたことのない「歓喜」という表情で見開かれた。


《おいしい……! なにこれ、すっごく、おいしい! それに、体が……熱い!》


一口、また一口とポットパイを食べ進めるうちに、彼の体に、劇的な変化が起こり始めた。

脂の乗った肉と、栄養価の高い木の実が、彼の体の「内なる炎」に、最高品質の燃料として、次々とくべられていく。彼の体の芯から、今まで感じたことのない、深く、力強く、そしてどこまでも温かいエネルギーが、満ちてくるのが分かった。


彼の肌には、竜族本来の、健康的な艶が戻り、小刻みに震えていた体は、いつの間にか、ぴたりと止まっている。


「どうだい、坊主。腹の底から、力が湧いてくるだろ?」


俺が言うと、少年はこくりと、力強く頷いた。その額には、玉のような汗が浮かんでいる。


そして、食事が終わる頃には、彼はすっかり元気を取り戻していた。頬は健康的な赤色に染まり、その瞳には、生命力に満ちた、活発な光が戻っている。


そして、奇跡は、彼の尻尾で起きた。

今まで、か細く揺らめくだけだった小さな火の玉が、一度、きゅっと収縮したかと思うと、


ゴォォォッ!


と、まるで小さな太陽が生まれたかのような音を立てて、勢いよく燃え上がったのだ。

それはもう、消えかけの灯火ではない。暖炉の火のように、力強く、そして温かく燃え盛る、竜族本来の、生命力に満ちた炎だった。


《あ……!僕の、炎が……!燃えてる!温かいよ!全然、寒くない!》


少年は、自分の尻尾で燃える、力強い炎を、信じられないといった様子で見つめている。そして、歓喜の声を上げると、その場で、嬉しそうに飛び跳ねた。


「はは、そりゃ良かったな。それだけ燃えてりゃ、一冬越すのも、余裕だろ」


「うん!全然怖くない!旦那さん、ありがとう!」


元気になった仔竜は、俺に深々と頭を下げると、風のように店を飛び出していった。その足取りは、もう来た時のような弱々しいものではない。初めての冬に、たった一人で立ち向かう、小さな勇者の、力強い足取りだった。


「やれやれ、これで、春までぐっすり眠れるだろ」


俺は、空になった壺を片付けながら、一人、静かにつぶやいた。

生きること、眠ること、そして、また目覚めること。その、当たり前で、尊い生命のサイクルも、結局は、食い物が支えている。


この食堂は、どうやら、ただの飯屋じゃない。

森の仲間たちの、命そのものを、支える場所になりつつあるのかもしれないな。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
尻尾の火って仔竜がサラマンダー化してる?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ