第十八話:仔竜とエネルギー貯蔵の話 (2/3)
「今日は、君の体に、春まで燃え続ける、最高の薪を、腹一杯くべてやる!」
俺は厨房に立つと、まず、店の奥からずっしりと重い、猪のバラ肉の塊を取り出した。赤身と脂身が、美しい層を成している、極上の部位だ。
「坊主、よく見とけよ。あんたが今まで食ってたのは、言ってみりゃ、すぐに燃え尽きちまう『焚き付け』みてえなもんだ。これから作るのは、一冬、じっくりと、静かに、だが確実に燃え続けるための、『極上の薪』だ」
俺はそう説明しながら、猪の肉を角切りにし、熱した鍋で表面を焼き付けていく。
ジュウウウウッ!
という音と共に、脂が溶け出し、野性的で、力強い香りが店の中に立ち込めた。
カウンターの向こうで、仔竜が、ごくりと喉を鳴らしたのが分かった。
《なんだろう……この匂い……。今まで食べてきたお肉とは、全然違う……。体の奥が、もっとこれを欲しがってる……》
「薪の主役は、肉だけじゃねえ。こいつらだ」
俺は、大きな木のボウルに入った、たっぷりの木の実を彼に見せる。第四話の買い出しで手に入れたクルミ、秋の森で拾い集めた栗やドングリ。
「この木の実ってのはな、植物が、次の春に芽吹くための、生命エネルギーの塊なんだ。特に、このクルмиや栗には、少量でも高いカロリーを蓄えることができる、最高の植物性の脂肪が、ぎっしりと詰まってる。こいつが、あんたの体を、春まで守ってくれる、最高のエネルギー源になるんだぜ」
俺は、その木の実を、肉と一緒に鍋に投入し、甘みを引き出すためにじっくりと炒めた玉ねぎや、根菜と共に、特製のデミグラスソースで煮込んでいく。
店の中は、もはや香りの宝石箱だった。肉の焼ける香ばしい匂い、木の実の甘い香り、そしてソースの深いコクのある香りが混じり合い、彼の飢えた体に、直接語りかけてくるようだった。
「そして、仕上げに、こいつで蓋をする」
俺は、バターをたっぷりと練り込んだパイ生地を、薄く伸ばしていく。煮込んだシチューを小さな壺に入れ、その上から、パイ生地でぴったりと蓋をする。
「お待ちどう。栄養爆弾!森の恵みのポットパイだ。こいつを、石窯でじっくり焼き上げて、完成だ」
俺は、その壺を、熱い石窯の中にそっと滑り込ませた。
仔竜は、オーブンの小さな窓から見える、自分のための特別な料理が、こんがりと焼き上がっていく様子を、ただただ、祈るような目で見つめていた。
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