第十六話:ミミックと自己肯定感の話 (2/3)
「今日は、君の心と体を、内側からピカピカに磨き上げてやる。世界で一番美味い、『家具ワックス』でな!」
俺は厨房に立つと、棚の奥から、いくつかの材料を取り出した。一つは、アナグマから分けてもらった、蜂の巣を精製して作った「蜜蝋」。もう一つは、第四話の買い出しで手に入れた、栄養たっぷりの「クルミ」だ。
《か、家具ワックス……? あの、臭くて、ベタベタするやつですか……? 僕、あれ、苦手で……》
カウンターの隅で、ミミックが不安そうな声を出す。
「はは、心配するな。俺が作るのは、そこらのとは訳が違う。これは、君のための、食べるワックスだ」
俺はそう説明しながら、まず、蜜蝋を小さな鍋に入れ、ごく弱火でゆっくりと溶かしていく。ふわりと、ハチミツのような、甘く、清らかな香りが店の中に立ち込めた。
「いいかい、坊主。この蜜蝋はな、あんたのその木肌に、自然な艶と、雨や汚れから身を守るための、薄くて強い膜を作ってくれる。いわば、君のための、見えない鎧だな」
次に、俺は殻を割ったクルミの実を、すり鉢に入れて、丁寧にすり潰していく。油分が滲み出し、ナッツ特有の、香ばしい香りが漂い始めた。
「そして、このクルミから出る油。こいつが、乾燥してカサカサになった、あんたの体の隅々まで染み込んで、内側から栄養を与えてくれるんだ。人間で言う、保湿クリームみたいなもんだな」
溶かした蜜蝋に、ペースト状になったクルミを加え、最後に、森の恵みであるハチミツをたっぷりと加えて、木べらでゆっくりと練り上げていく。
甘く、香ばしく、どこか心を落ち着かせるような、温かい香りが、店の中を満たしていく。
カウンターの隅で、ミミックは、ただ黙って、その様子を見つめていた。
その蓋の隙間から、彼の心の声が聞こえてくる。
《なんだろう……この匂い……。今まで、僕が知っていたのは、ダンジョンのカビ臭い匂いと、冒険者の汗の匂いだけだったのに……。この匂いは、なんだか、温かくて、優しい……。本当に、僕、変われるのかな……?》
やがて、全ての材料が滑らかに混ざり合い、美しい艶のある、黄金色のペーストが完成した。
「お待ちどう。特製、ウッドケア・ペーストだ」
俺は、出来上がったばかりの温かいペーストを、小さな木の器に入れ、ミミックの前に、そっと置いた。
「さあ、食ってみな。いや、『吸収』してみな。こいつを、君の体の一部にするんだ。外側から塗るだけじゃ意味がねえ。内側から、君自身が輝くんだよ」
ミミックは、目の前に置かれた、甘く、優しい香りを放つペーストを、ただじっと見つめていた。その体は、期待と不安で、わずかに、カタカタと震えているようだった。
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