幕間:小さな炎と魂のスパイス
僕の名前は、まだない。サラマンダーの子供だ。
僕たちの誇りは、尻尾の先に燃える、生命の炎。でも、僕の炎は、もうずっと前から、消えそうなくらい小さかった。
寒い。いつも、いつも、寒かった。
毛布にくるまって、丸くなっていても、体の芯から、じわじわと冷えていく感じ。大好きだった木の実も、自分の炎でこんがり焼いて食べることができない。みんなが元気に森を駆け回っているのを、僕はただ、震えながら見ているだけだった。
このまま、僕の炎は、消えちゃうのかな。
そしたら、僕は、どうなっちゃうんだろう。
怖くて、悲しくて、涙も出なかった。
その日も、僕は寒さに耐えながら、森をさまよっていた。その時、ふわりと、今まで嗅いだことのない、不思議な匂いがしてきたんだ。なんだか、体の奥が、むずむずするような、力強い匂い。僕は、その匂いに引き寄せられるように、一軒の食堂にたどり着いた。
お店の旦那さんは、ぶっさんと名乗った。
彼は、震える僕を見て、驚きもせず、ただ優しく、僕の体の「内なる炎」が消えかかっているんだと教えてくれた。
そして、彼が作ってくれたのは、僕が今まで見たこともない、不思議な料理だった。
スパイシーな香りが、僕の鼻をくすぐる。それは、今まで僕が知っていた、木の実の優しい香りとは全く違う、魂を直接揺さぶるような、攻撃的で、でも、たまらなく魅力的な香りだった。
一口、口に運んだ。
その瞬間、僕の体の中で、何かが爆発した。
からい!
けど……おいしい!
そして、温かい!ううん、熱い!
体の芯、お腹の底から、まるで小さな太陽が生まれたみたいに、熱い力が、手足の先まで、一気に駆け巡っていく!
夢中で食べた。食べるたびに、僕の内なる炎が、薪をくべられたみたいに、どんどん燃え上がっていくのが分かった。
食事が終わる頃には、もう寒くなかった。それどころか、体が燃えるように熱かった。
そして、奇跡が起きた。
ずっと、小さな灯火だった僕の尻尾の炎が、**ボッ!**と音を立てて、燃え上がったんだ。
赤くて、大きくて、温かい。これだ。これが、僕の本当の炎だ。
「ありがとう!」
僕は、旦那さんに叫んで、店を飛び出した。
走れる!跳べる!体が、軽い!
もう、寒くない。もう、怖くない。
僕の魂に、もう一度火を灯してくれた、あの熱くて美味しい料理の味を、僕は、きっと一生忘れない。
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