第十五話:サラマンダーと代謝の話 (2/3)
「よし、任せとけ。今日は、君の魂に、もう一度火を灯してやる。世界で一番熱くて、美味い料理でな!」
俺は厨房に立つと、まず、大きな鉄のフライパンを火にかけた。そして、棚の奥から、様々なスパイスが入った小瓶を、ずらりとカウンターに並べていく。
「坊主、よく見とけよ。こいつらが、あんたの内なる炎を再点火させるための、『着火剤』だ」
俺は、乾燥させた唐辛子、黒胡椒の粒、そしてショウガの塊を、サラマンダーの少年に見せる。
「この唐辛子に含まれる『カプサイシン』って成分や、ショウガや胡椒のピリッとした刺激はな、血の巡りを良くして、体を内側から強制的に燃え上がらせる力があるんだ。いわば、湿気った薪に、最初に火をつけるための、松明みてえなもんだな」
俺はそう説明しながら、ニンニクとショウガを細かくみじん切りにし、熱したフライパンに油と共に入れる。
ジュワッ!
という音と共に、食欲を猛烈に刺激する香りが、店の中に立ち込めた。
カウンターの向こうで、毛布にくるまったサラマンダーの少年が、ぴくりと鼻を動かしたのが分かった。
《なんだか……体の奥が、少しだけ、むずむずするような……香り……》
「着火剤だけじゃ、炎はすぐに消えちまう。大事なのは、燃え続けるための『燃料』だ」
俺は、新鮮な鹿のひき肉を、フライパンに投入する。肉の色が変わるまで炒めたら、細かく刻んだ玉ねぎと、数種類の豆を加えて、さらに炒め合わせていく。
「この肉や豆には、エネルギーの元になるタンパク質や鉄分、それに、代謝を助けるビタミンB群がたっぷり含まれてる。こいつが、あんたの内なる炎を、一晩中燃え続けさせるための、極上の薪になるんだぜ」
最後に、クミン、コリアンダー、ターメリックといった、複雑で奥深い香りのスパイスを加え、トマトを煮詰めたソースで全体をまとめ、じっくりと煮込んでいく。
店の中は、もはや香りの洪水だった。スパイシーで、野性的で、しかしどこか食欲をそそる甘い香りが、満ち満ちている。炊き立てのご飯の香りも、それに加わる。
「お待ちどう。魂に火を灯す、スパイシーキーマカレーだ」
俺は、皿に盛ったご飯の横に、湯気の立つ熱々のキーマカレーをたっぷりとかけた。仕上げに、半熟の目玉焼きを乗せて、完成だ。
俺は、その一皿を、震えるサラマンダーの少年の前に、そっと置いた。
彼は、目の前から立ち上る、力強いスパイスの香りと熱気に、ただただ、圧倒されているようだった。
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