第十五話:サラマンダーと代謝の話(1/3)
デュラハンの騎士が、心と体の一体感を取り戻してから数日。店にはまた、穏やかな時間が流れていた。俺、仏田武ことぶっさんは、カウンターを磨きながら、この不思議な店にやってくる客たちのことを考えていた。
「心と体、脳と腸、首と胴体…。生き物ってのは、本当にいろんなもんが繋がって、一つの命になってんだな。どれか一つが欠けても、バランスが崩れちまう」
そんなことを考えていると、カランコロン、と、まるで枯れ葉が転がるような、か細く、力ないドアの音がした。
見ると、そこに、小さな子供が立っていた。年の頃は、人間の子供で言えば7、8歳だろうか。大きな瞳に、トカゲのような滑らかな肌。そして、その背中から伸びる尻尾の先には、本来であれば、生命力の証である炎が、赤々と燃えているはずだった。
だが、彼の尻尾の先で揺らめいているのは、風が吹けばすぐにでも消えてしまいそうな、ロウソクの灯火よりもさらに小さな、頼りない火の玉だけだった。彼は、その小さな炎を必死にかばうように、古い毛布にくるまり、小刻みに体を震わせている。
「いらっしゃい。坊主、ひどく寒そうじゃねえか。こっちに来て、ストーブのそばに座りな」
俺が声をかけると、少年――サラマンダーの子供だろう――は、おずおずと店の中に入ってきた。
《あ、ありがとう……ございます……》
脳内に響いてきたのは、歯の根が合わないほど震える、か細い声だった。
「どうしたい、そんなに震えて。何か、温かいもんでも飲むかい?」
俺が尋ねると、少年は悲しそうに、自分の尻尾の先にある、小さな火の玉を見つめた。
《僕…なんだか、ずっと寒いんだ…。僕たちサラマンダーの誇りであるこの尻尾の炎も、前はあんなに、薪の火みたいに燃えていたのに、今は、こんな……。体が冷たくて、力が出なくて、大好きだった木の実も、自分でこんがり焼いて食べられないんだ…》
なるほど。炎の精霊とも言われるサラマンダーが、その熱を失ってしまっているのか。これは、ただの風邪や病気じゃなさそうだ。
俺は、彼の様子をじっくりと観察する。肌の艶、瞳の光、そして、その小さな炎の揺らめき方。
(これは、体の外側の問題じゃねえ。もっと内側、生き物の根源的なエネルギーの問題だ。つまり…)
「坊主、あんたのその不調は、『代謝の低下』が原因だな」
《めた…ぼりずむ…?》
「ああ。生き物の体の中にはな、食べた物を燃やして、エネルギーや熱を生み出す、『内なる炎』みてえなもんがあるんだ。そいつを、代謝って言う。あんたたちサラマンダーみたいな炎の生き物は、特にこの代謝が活発で、常に体の中で炎が燃え盛ってなきゃならねえ。あんたの尻尾の炎が弱いのは、その『内なる炎』が、燃料不足で消えかかってる証拠なんだよ」
俺の説明に、少年は驚いたように目を見開いた。
《僕の、中の炎が……?》
「ああ。だから、あんたに必要なのは、ただ体を温めることじゃねえ。その内なる炎に、最高の燃料を補給して、もう一度、着火剤を投げ込んで、燃え上がらせてやることだ」
俺はニヤリと笑うと、寒さに震える小さなサラマンダーに、力強く宣言した。
「よし、任せとけ。今日は、君の魂に、もう一度火を灯してやる。世界で一番熱くて、美味い料理でな!」
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