表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気まぐれ食堂ねこまんま〜動物好きおっさんの異世界飯テロ日誌〜  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/300

幕間:首なし騎士と空腹の音

体の独白

我が体は、騎士としての務めを果たすためだけに存在する。

主君あるじである「かしら」の命令に従い、剣を振るい、馬を駆る。それだけが、我が存在理由。そこに、感情や欲求が入り込む余地はない。


「空腹」という感覚を、我が体は知らぬ。

ゆえに、主がどれだけ「腹が減った」と叫ぼうとも、我が体には、その言葉の意味を理解することができなんだ。腹は、空いておらぬのだから。ただ、主の命令は絶対である。ゆえに、何かを口にはする。だが、それはただの「作業」に過ぎなんだ。


しかし、近頃、主の命令とは裏腹に、我が体の動きが鈍くなっているのを感じていた。剣を振るう腕が、重い。馬を御す手綱が、鉛のようだ。理由は、分からぬ。ただ、何かが、足りていない。その焦りだけが、我が体を支配していた。


主は、わめき散らしておった。「このままでは二人とも動けなくなる」と。

その言葉の意味も、我が体には、やはり理解できなんだ。


あの食堂を訪れた時も、主は一方的に叫び、我が体はただ、沈黙を守るのみ。

店の主は、奇妙なことを言っておった。「飢餓ホルモン」とやらが、届いておらぬ、と。


そして、目の前に置かれた、熱い鉄板。

その上に、肉の塊が置かれた瞬間、我が体に、初めての異変が起きた。


ジュワァァァァァァァァァッッ!!!


その音。その匂い。その、立ち上る煙。

我が体の奥底で、今まで眠っていた何かが、無理やり叩き起こされた。主の命令ではない。もっと、原始的で、抗いがたい、魂の叫び。


グゥゥゥゥ……


我が腹が、鳴った。

初めて知る感覚。これが、「空腹」。

気づけば、我が手は、主の命令を待たずして、ナイフとフォークを握りしめていた。


首の独白

我は、騎士である。そして、この体の主である。

だが、この愚鈍な体は、我が言うことを全く聞かぬ!


我は、知っているのだ。エネルギーが、枯渇しかけていることを。このままでは、剣を振るうどころか、立ち上がることすらできなくなる。その恐怖を、この体は全く理解しようとせぬ。「腹は空いていない」の一点張り。ああ、なんと愚かで、なんと歯がゆいことか!


あの食堂を訪れた時も、我は必死に訴えた。だが、体は沈黙したまま。

店の主は、我らの体の仕組みを、いとも簡単に見抜いてみせた。胃から脳への信号が、届いていない、と。絶望的ではないか。


だが、男は言った。「本能を叩き起こす」と。

そして、目の前で始まったのは、料理というより、一種の儀式だった。


鉄板が焼ける音、肉が爆ぜる音、ニンニクとバターの香り、そして、醤油の焦げる、禁断の香り!

我が脳は、その圧倒的な情報の奔流に、完全に支配された。食いたい!食わねばならぬ!


その時だ。

我が体から、あの音がした。腹の虫が鳴く、という、あの音が。

そして、体は、初めて、我が命令を待たずに、動き出したのだ。


そして、二人は

体が、肉を切り分ける。

その一切れが、我が口元へと運ばれる。

口に含んだ瞬間、我(首)は、その圧倒的な旨味に打ち震えた。

そして、それと全く同じタイミングで、我(体)は、その肉が胃に収まり、温かいエネルギーとなって全身に満ちていくのを、はっきりと感じ取っていた。


ああ、これだ。

これだったのだ。

我らが求めていたのは、この、完全なる一体感。


それからは、夢中だった。

体が運び、首が味わう。そこにはもう、すれ違いも、苛立ちもない。ただ、生きるという喜びに満ちた、完璧な調和があるだけだった。


帰り道、我らは、初めて、同じものを見て、同じことを感じていた。

「どうやら、仲直りできたみてえだな」

店の主の言葉に、我らは、同時に、こくりと頷いた。


我らは、二人で、一人の騎士なのだから。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ