第十四話:デュラハンと飢餓ホルモン (2/3)
「ホルモン信号がダメなら、もっと原始的な感覚に訴えかけるしかねえな。よし、任せとけ。お前さんたちの体に、無理やりにでも『食欲』を思い出させる、最高の料理を作ってやる」
俺は厨房に立つと、まず、店の奥から一番分厚く、重い鉄板を引っ張り出してきた。そして、それを石窯の中に入れ、カンカンに熱し始める。
「おい、店主。一体、何をする気だ? 料理に、そんな大げさな鉄の塊が必要なのか?」
小脇に抱えられた生首が、訝しげに尋ねる。
「ああ。今日の主役は、味じゃねえ。音と匂い、そして見た目だ。お前さんたちの、腹の底に眠ってる、野生の本能を叩き起こす」
俺はそう説明しながら、大きな冷蔵庫から、先日グリフォンが置いていってくれた、極上の鹿肉の塊を取り出した。美しい赤身に、きめ細かいサシが入った、最高の部位だ。俺はそれを、指三本分はあろうかという、贅沢な厚さに切り分ける。
「いいかい、嬢ちゃんたち。今からやるのは、料理であり、一種のショーだ。よく見とけよ」
俺は、熱した鉄板を石窯から取り出し、デュラハンの騎士が座るカウンターの目の前に、ドンッ!と置いた。鉄板からは、空間が歪むほどの熱気が立ち上っている。
そして、俺は、切り分けた鹿肉の塊を、その鉄板の上に、叩きつけるように置いた。
ジュワァァァァァァァァァッッ!!!
その瞬間、店中に、鼓膜を直接揺さぶるような、圧倒的な音が響き渡った。肉の表面が、一瞬にして焼き固められ、香ばしい煙が、もうもうと立ち上る。
「うおっ!?」
生首が、驚きの声を上げる。騎士(体)の方も、その音と熱気に、ビクッと肩を震わせた。
俺は、休む間もなく、その肉の横に、たっぷりのニンニクのスライスと、バターの塊を乗せる。バターが溶け、ニンニクの香りが立ち上り、肉の焼ける匂いと混じり合って、もはや暴力的なまでの、食欲をそそる香りが、店中に満ちていく。
「どうだい? この音、この匂い。腹は減ってなくとも、体が、脳が、勝手に反応しちまうだろ?」
俺はニヤリと笑いながら、肉の表面に、岩塩と粗挽きの黒胡椒を振りかける。そして、仕上げに、醤油を数滴、鉄板の上に垂らした。
ジュッ!
醤油の焦げる、日本人なら誰も抗うことのできない、禁断の香りが、とどめを刺すように、二人の鼻腔を突き抜ける。
生首は、ゴクリと、音を立てて喉を鳴らした。
そして、驚くべきことに、今まで無反応だった騎士(体)の方が、鎧に覆われた腹部を、きゅっと、かすかに震わせたのだ。
それは、何の前触れもなく、腹の虫が鳴いた音だった。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。




