第十三話:悪夢を食べる獏と腸脳相関 (2/3)
「今夜は、ぐっすり眠れるようにしてやる。俺に任せな」
俺は厨房に立つと、まず、ポットに湯を沸かし始めた。今夜の主役は、刺激的な料理じゃない。どこまでも優しく、心と体に染み渡るような、癒しの料理だ。
「旦那、まずは、荒れた心を落ち着かせる、魔法の茶葉からだ」
俺は棚から、乾燥させた二種類のハーブを取り出した。一つは、カモミール。もう一つは、ペパーミントだ。
「このカモミールって花にはな、神経の興奮を鎮めて、穏やかな眠りを誘う効果がある。心のささくれを、優しく撫でてくれるようなハーブだ。そして、こっちのミント。こいつの爽やかな香りは、胃の不快感を和らげて、消化を助けてくれる。脳と胃、両方に効く、最高の組み合わせだぜ」
俺はそう説明しながら、二つのハーブをティーポットに入れ、お湯を注ぐ。ふわりと立ち上る、リンゴのような甘いカモミールの香りと、清涼感のあるミントの香り。その香りを嗅ぐだけで、ささくれ立っていた心が、穏やかになっていくようだった。
カウンターの向こうで、バクが、その大きな鼻をひくつかせているのが分かった。
《なんと……。心が、洗われるような香りだ……。今までわしが食べてきた、どろりとした悪夢の匂いとは、正反対だ……》
「飲み物だけじゃねえ。食事も、お腹を優しくマッサージしてやるようなもんにしねえとな」
俺は、深めの鍋に、野菜だけで取った、あっさりとしていながらも滋味深い出汁を温める。そこに、洗った米を入れ、焦げ付かないように、木べらでゆっくりと、絶えずかき混ぜていく。
「今、旦那の胃は、濃い味の悪夢のせいで、すっかり疲れ切ってる。だから、肉や油っこいもんは厳禁だ。こういう、消化が良くて、温かいもんで、まずは胃を休ませてやるのが一番なんだ」
米が出汁を吸って、柔らかく、とろりとしてきたら、細かく刻んだ人参と、この世界で手に入れたカボチャに似た、甘みの強い野菜を加える。そして、仕上げに、粉チーズをたっぷりと振り入れ、塩と胡椒で、優しく味を整える。
チーズの濃厚な香りと、野菜の優しい甘みが混じり合い、店の中に、安心感に満ちた匂いが満ちていく。
「お待ちどう。まずは、この特製ハーブティーからだ。ゆっくり、息を吸い込むように、香りを楽しみながら飲んでみな」
俺は、湯気の立つカップを、バクの前にそっと置いた。
彼は、そのカップを、まるで壊れ物を扱うかのように、慎重に手に取ると、おずおずと、その一口を口に運んだ。
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