第二話:誇り高きグリフォンと天然のサングラス (1/3)
コカトリスのコッコ君が店に来てから数日。俺、仏田武ことぶっさんの「気まぐれ食堂 ねこまんま」は、相変わらず森の静寂に包まれていた。
「さてと、そろそろ仕込みでも始めるか」
カウンターを磨き上げ、厨房に立ったその時だった。
ドッゴォォォン!!!
突如、地響きのような轟音と共に、店全体が激しく揺れた。屋根が抜けたかと思うほどの衝撃だ。
「な、なんだ!? 地震か!? いや、隕石か!?」
俺が慌てて外に飛び出すと、店の屋根の上に、巨大な影が乗っていた。
上半身は猛々しい鷲、下半身は力強い獅子。黄金の羽と、しなやかな尾を持つ、伝説の魔物。
(グ、グリフォン……! デカい! そしてめちゃくちゃ格好いいなオイ!)
動物好きの血が騒ぐが、それどころではない。屋根、絶対ヒビ入ってるだろアレ。
すると、屋根の上のグリフォンは、バサッ!と巨大な翼を広げ、ゆっくりと地面に降り立った。その一挙手一投足が、威厳に満ちている。
だが、次の瞬間。
ゴッ!
「ぐっ……!」
グリフォンは、店の入り口のドア枠に、思いっきり翼の付け根をぶつけていた。あまりの勢いに、一瞬よろめいている。
(……ん? 今のぶつかり方、不自然じゃなかったか?)
カランコロン、といつもより乱暴な音を立てて店に入ってきたグリフォンは、何事もなかったかのように翼をたたみ、鋭い眼光で俺を睨みつけた。その瞳は、誇り高い空の王者のものだ。
脳内に、低く、威圧的な声が響いてくる。
《……ここが、噂の食堂か。主は貴様か?》
「へい、いらっしゃい。俺がぶっさんだ。見ての通り、しがない食堂の親父だよ」
俺は努めて平静を装いながら、目の前の伝説の魔物を観察する。
体長は3メートル近くあるだろうか。黄金の羽毛は手入れが行き届いているが、ところどころに小さな傷が見える。獅子の体躯も筋肉質で、ただ者ではないオーラが漂っていた。
だが、やはり気になる。さっきの翼のぶつけ方。そして、店に入ってきてから、彼の瞳の焦点が微妙に合っていないような気がするのだ。
《ふん。しがない親父が、このような場所で店を構えているとはな。腕に覚えがあるのか、ただの命知らずか》
「さあ、どうだろうな。腹が減ってるなら、何か作るが」
俺がそう言うと、グリフォンは少し黙り込んだ後、そっぽを向きながらぶっきらぼうに言った。
《……なんでもいい。腹にたまるものを出せ》
(おっと、これはまたプライドが高そうな客が来たもんだ)
コッコ君とは対照的な、いかにも「王様」然とした態度。だが、その態度の裏に、何か隠しているような、焦りのようなものが透けて見える。
俺はニヤリと笑みを浮かべた。こういう一筋縄ではいかない客ほど、料理人としての腕が鳴る。
「了解。とびきり美味いもんを作ってやるよ。少し待ってな」
俺は厨房に向かいながら、グリフォンの様子を注意深く観察する。彼はカウンターの椅子に座ろうとして、わずかに距離感を見誤り、座り直していた。
間違いない。この誇り高き空の王者は、何か問題を抱えている。
そしてその問題は、おそらく、彼の誇りの源泉である――**「目」**に関わるものだ。
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