幕間:厨房の小さな巨人たちと、これからの物語
師の、隣に立つための、始まりの一射見届けた後。
気まぐれ食堂ねこまんまの厨房には、いつもの穏やかな時間が流れていた。
だが、その空気は、以前とは明らかに違っていた。
かつては、俺の指示を待つだけだった三人の小さな影は、今や、この厨房を支える頼もしい柱となっていた。
「親方、明日の仕込み、根菜類は少し多めにしておきますね。最近、土の気を求めるお客さんが多いみたいだから」
リルが、在庫表を見ながら的確な提案をする。
「おう!薪も、火持ちのいいカシの木を多めに割っといたぜ!どんな長丁場の煮込み料理が来ても大丈夫だ!」
ゴルが、力こぶを叩いて笑う。
「包丁も、全部研ぎ直しておきました。いつ、どんな食材が来ても、最高の状態で迎え撃てます」
ザックが、きらりと光る包丁を満足げに見つめる。
俺、仏田武は、そんな彼らの姿を、カウンターの隅で、少しぬるくなった茶をすすりながら眺めていた。
(…へっ。いつの間にか、本当に、でっかくなりやがって)
最初は、ただの悪戯好きの、森の厄介者たちだった。
それが今では、悩める客の心の痛みを見抜き、自分たちの知恵と技術で、その人生さえも変えてしまう、立派な料理人だ。
もう、俺が手取り足取り教える時期は、終わったのかもしれない。
「…おい、お前ら」
俺が声をかけると、三人は作業の手を止め、一斉にこちらを向いた。その眼差しは、まっすぐで、力強い。
「今日は、店じまいだ。久しぶりに、四人でゆっくりメシでも食おうじゃねえか」
俺の提案に、三人は一瞬きょとんとし、次の瞬間、弾けるような笑顔を見せた。
「「「はい、親方!!!」」」
その夜、厨房には、客のためではなく、自分たちのための料理を作る、楽しげな音が響き渡った。
ザックが鍋を振り、リルが味を調え、ゴルが大皿を並べる。
テーブルに並んだのは、あり合わせの材料で作った、しかし、どんなご馳走よりも温かい「まかない」の数々。
俺たちは、共に食べ、共に笑い、これまでの失敗や、成功した時の喜びを語り合った。
窓の外では、春の月が、静かに森を照らしている。
この森には、まだまだ、俺たちの知らない悩みを抱えた者たちがいるだろう。
だが、今の俺たちなら、きっと大丈夫だ。
この小さな食堂には、最強のチームがいるのだから。
気まぐれ食堂ねこまんまの夜は、温かい笑い声と共に、静かに更けていく。
彼らの、そして俺たちの新しい物語は、まだ、始まったばかりだ。
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**【読者の皆様へ】**
いつも「気まぐれ食堂ねこまんま」をご愛読いただき、本当にありがとうございます!
作者のはぶさんです。
本作は、この「リザードマンと黒酢あんかけ」のお話をもちまして、一つの区切り(第一部完とでも言いましょうか)とさせていただきます。
最初は右も左も分からなかった、いたずらっ子のコボルト三人組。
彼らが、ぶっさんとの出会いを通じて料理の楽しさを知り、失敗を乗り越え、多くの悩める森の住人たちを救うまでに成長していく姿を、ここまで書き続けることができたのは、ひとえに、いつも温かい応援をくださる読者の皆様のおかげです。
彼らの成長を、親のような(あるいはぶっさんのような)気持ちで見守ってくださり、本当にありがとうございました。
物語は、ここで一旦の小休止となりますが、彼らの料理人としての道は、まだまだ始まったばかりです。
もっと広い世界、もっと難しい難題、そして、新しい出会いが、彼らを待っていることでしょう。
充電期間を経て、またパワーアップした「ねこまんま」の厨房で、皆様にお会いできる日を楽しみにしております。
それまで、どうぞ皆様も、美味しいご飯をたくさん食べて、元気にお過ごしください!
本当に、ありがとうございました!
はぶさん




