幕間:誇り高き射手と、破壊の矢
我が師は、壁であった。
完璧で、揺るぎなく、決して越えることのできぬ、絶対的な壁。
あの日、お前たちにイップスを治してもらった時、我が腕は再生した。だが、魂は、まだ、あの人の影に囚われたままだったのだ。
だから、我は、再びあの食堂の扉を開いた。
ただ、答えを乞うためではない。
あの、常識の外側から「答え」を導き出す、若き賢者たちに、我が「問い」をぶつけるために。
彼らが導き出した答えは、無謀、そのものだった。
「アボカド」と「山葵」。
森の優しさと、清流の怒り。調和ではなく、混沌。
我が、完璧に研ぎ澄まされた「型」を、あざ笑うかのような、挑戦的な一皿であった。
一口、口に運ぶ。
その瞬間、わたくしの世界から、完璧だったはずの調和が消えた。
アボカドの、どこまでもクリーミーな森の味わい。それが、舌を優しく包み込んだ、次の瞬間。
**ツゥゥゥゥン!!!**
山葵の、脳天を突き抜けるような、鮮烈な、清冽な刺激が、わたくしの、完璧に調和していた「型」を、粉々に、打ち砕いたのだ。
だが、それは、不快な破壊ではなかった。
アボカドの脂が、その、あまりにも強すぎる刺激を、絶妙なバランスで受け止め、ただの「辛さ」ではない、官能的な「香り」へと、昇華させている。
ああ、なんと、力強いのでしょう。
安定でも、調和でもない。これは、わたくしが、ずっと探し求めていた、『革新』という名の、衝撃でした。
そうだ、師の型をなぞるだけでは、永遠に師は超えられぬ。
師の型を「知った」上で、自らの意思でそれを「壊す」。
その、破壊の先にしか、新しい我は、いなかったのだ。
ありがとう、ザック様、リル様、ゴル様。
あなた方が与えてくれた、この優しい破壊で、わたくしは、この、美しき春の森で、もう一度、矢を放つとしましょう。
師の背中を追う矢ではない。
師の、隣に立つための、わたくし自身の、始まりの一射を。
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