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気まぐれ食堂ねこまんま〜動物好きおっさんの異世界飯テロ日誌〜  作者: はぶさん


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第七十話:リザードマンと、疲労回復の黒酢あんかけ(2/3)


ザックの、若き料理人としての、自信に満ちた宣言。

疲れ切っていたリザードマンのゲッコウは、その、あまりにも力強く、そして、どこか食欲をそそる響きを持つ料理の名前に、ただ、その鋭い瞳を、ぱちくりとさせるだけだった。


厨房の空気が、キリリと引き締まる。

親方の指示はない。自分たち三人だけで、この、誇り高き剣士の、肉体と魂の錆を、完璧な一皿で、磨き上げなければならない。


「…リル、設計は、お前に任せる」

ザックの、リーダーとしての、全幅の信頼。リルは、力強く頷いた。

「うん。僕たちが作るべきは、『黒酢あん』だ。それも、三位一体の、完璧な疲労回復食だ。鶏肉(タンパク質)と、春野菜ビタミンを、最強の着火剤である『黒酢(クエン酸)』でまとめ上げ、一つの皿に集結させるんだ」


リルは、厨房の棚から、それぞれの「回復」を象徴する、主役となる食材を選び出した。

一つは、筋肉の修復に不可欠な、柔らかい鶏のモモ肉。一つは、色鮮やかな春の恵み、アスパラガスと、真っ赤なパプリカ。そして、もう一つは、この料理の魂、かめで熟成された、芳醇な香りを放つ黒酢。


カウンターの向こうで、その光景を見ていたゲッコウの、乾いた唇が、かすかに動いた。

(…鶏肉…?野菜…?そして、あの、黒く、酸っぱい香りのする液体…?これらが、わしを救うと…?)


「ゴル!お前の仕事は、この料理の、力強い『土台』作りだ!」

リルの、的確な指示が飛ぶ。

「鶏肉に、完璧な下味と、片栗粉の衣を、均一に纏わせてくれ!だが、ただ混ぜるんじゃねえ。親方が教えてくれた、あの『優しさ』の力だ。鶏肉の一片一片を、最高の舞台に上げるための、繊細な仕事だ!」

「おう、任せとけ!」

ゴルは、大きな銅のボウルの前に、どっしりと立った。彼の、岩のような指先が、今は、柔らかい鶏肉を、潰さぬよう、しかし、確実にタレを染み込ませるため、絶妙な力加減で、揉み込んでいく。

(…親方は言ってた。俺のこの手は、優しい雪を降らせる手だって…。この、疲れ切った旦那を、温めるための、ふわふわの、最高の衣を、俺の手で、纏わせてやるんだ…)


その間に、リルは、この料理の「魂」である、黒酢あんの調合を担当していた。

黒酢、醤油、砂糖、そして、鶏ガラの出汁。それらを、彼は、薬学者のように、一滴の狂いもなく、完璧な比率で混ぜ合わせていく。

(…この、酸味と、甘みと、塩味の、完璧なバランス。これこそが、彼の、止まってしまったエンジンを、再起動させる、魔法の鍵になるんだ…!)


そして、最後に、ザック。

彼は、この料理の「華」である、炒めの工程を担当していた。

熱した中華鍋に、たっぷりの油を注ぎ、ゴルが完璧に衣を纏わせた鶏肉を、一気に投入する。

**ジュワアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!**

厨房に、魂が歓喜するような、最高の音が、響き渡った。

彼は、その作業を、ゲッコウの心に、直接届けるかのように、敢えて、楽しげに、そして、力強く、行っていた。

(…聞こえるか、大将。これが、『活力』っていう、本質だ。あんたが今、一番欲しがってる、力強い、生命の音だぜ…!)

鶏肉に火が通ったら、春野菜を加え、神業のような鍋さばきで、炎を操る。そして、リルの調合した黒酢あんを、一気に回しかけた。

**ジュジュウウウウウウウウウウッッ!!!**

甘酸っぱく、香ばしい香りが、爆発した。


皿の上に、一つの、完璧な「物語」が完成した。

黒酢の、艶やかな暗黒の中で、鶏肉の黄金色、アスパラの緑、パプリカの赤が、互いを引き立て合い、美しく輝いている。


俺は、その光景を、ただ、静かに見守っていた。

(…もう、俺の出る幕は、本当に、なくなったな…)

彼らは、俺の教えを、ただ真似るのではない。自分たちの経験と、知識と、そして、目の前の客への想いを融合させ、全く新しい、自分たちだけの「答え」を、生み出している。


ザックが、その皿を、ゲッコウの前に、そっと置く。

「お待ちどう。あんたのための、『疲労回復!鶏肉と春野菜の黒酢あんかけ』だ。さあ、腹いっぱい、この活力を、味わってくれ」


ゲッコウは、ただ、言葉もなく、その光景を見つめていた。

目の前から立ち上る、酢の、どこまでも食欲をそそる酸味と、醤油の香ばしい、温かい香り。

それは、彼が、もう何ヶ月も忘れてしまっていた、生きるという、ささやかで、しかし、何よりも力強い、幸せの光景そのものだった。


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ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!

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