表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気まぐれ食堂ねこまんま〜動物好きおっさんの異世界飯テロ日誌〜  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

287/300

幕間:誇り高き衛兵と、初めての安らぎ


わたくしの世界は、音でできていました。

葉が擦れる音。小枝が折れる音。闇夜に、虫が羽ばたたく、その、かすかな音。

その全てが、わたくしにとっては、巣を脅かす「敵」の音でした。

衛兵として、誇り高き一族の守り手として、眠ることなど、許されなかった。

いつしか、わたくしの神経は、張り詰めた弓の弦のように、ほんのわずかな振動にも、殺気をもって反応するようになっていたのです。


眠い。

だが、眠れない。

その、あまりにも大きな矛盾が、わたくしの魂を、内側から、ゆっくりと蝕んでいきました。

体は鉛のように重く、誇りだった黄金の羽も、輝きを失っていく。

このままでは、わたくしは、衛兵としてではなく、ただの、疲れ果てた抜け殻として、この森の土に還ってしまうのではないか。

その恐怖が、わたくしを、あの、不思議な食堂へと、導いたのかもしれません。


現れたのは、まだ、あどけなさの残る、三人の、若き料理人さんたちでした。

彼らは、わたくしの、この、無様な姿を見ても、憐れみはしませんでした。それどころか、リーダー格の若者が、こう言ったのです。

「あんたの、その張り詰めちまった魂に、最高の休息をプレゼントしてやる」と。

(…面白い。やってみるがいい)


厨房の奥で、何やら三人が真剣に話し込んでいるのが見えた。やがて、彼らの顔が上がり、その瞳には、わたくしを救うという、揺るぎない決意が宿っていた。

それから始まったのは、調理というより、もはや、わたくしの魂を調律するための、神聖な儀式でした。彼らの真剣な眼差し、作業から伝わる音、そして、厨房から漂い始めた、どこまでも優しく、温かい香りが、恐怖で固く閉ざされていたわたくしの心を、少しずつ、解きほぐしていくのが分かりました。


そして、差し出された、一つの、温かい奇跡。

「月光の寝かしつけシチュー」。

一口、口に運ぶ。

その瞬間、わたくしの世界から、戦いの音が消えました。


鶏肉の、どこまでも優しい旨味。チーズの、濃厚なコク。ほうれん草の、大地の力強い味わい。

ああ、なんと、穏やかなのでしょう。

警戒音でも、敵の足音でもない。これは、わたくしが、ずっと探し求めていた、『安らぎ』という名の、温もりでした。


そして、奇跡は、本当に起きたのです。

わたくしは、ずっと忘れていた、あの感覚を、思い出しました。

体の芯から、強張っていた力が、解きほぐされていく感覚。

そして、抗いがたい、穏やかな眠気。

《…眠い…。ああ、なんと、眠いのだろう…》


ありがとう、ザック様、リル様、ゴル様。

あなた方が与えてくれた、この優しい温もりの中で、わたくしは、この、美しき春の森で、ほんの少しだけ、羽を休めるとしましょう。

もう、この森の夜が、衛兵の張り詰めた警戒心に凍えることはありません。

代わりに、どこからか、風に乗って聞こえてくる、穏やかで、大きな寝息に、全ての命が、新しい春の訪れを、確信するのですから。


---


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!

皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。

これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ