表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気まぐれ食堂ねこまんま〜動物好きおっさんの異世界飯テロ日誌〜  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/300

幕間:石の心とシュワシュワの奇跡

わしは、ゴホウ。ただの石くれじゃ。

遠い昔、わしには主がおり、四季折々の花が咲き誇る美しい庭園を守るという、誇り高い役目があった。だが、主は去り、庭園は森に還った。守るべきものを失ったわしは、ただ、時が過ぎるのを待つだけの存在となった。


雨が降れば、体に苔が生える。それは、まるで捨てられた石にまとわりつく、忘却の衣のようじゃった。風が吹けば、関節に砂が詰まる。動くたびに、体が軋む。「ギ、ギギ…」。その音は、わしの心がすり減っていく音のようでもあった。胸の奥にある、わしの命ともいえるコアの輝きも、日に日に弱くなっていくのが分かった。


もう、このまま森の土に還るだけかのう。

そう諦めかけていた時じゃ。風に乗って、不思議な噂がわしの耳に届いた。森の奥に、どんな悩みも解決するという、不思議な料理人がいる、と。


料理人? わしは飯など食わん。じゃが、何かにすがりたかった。わしは、軋む体に鞭を打ち、その店へと向かった。一歩進むごとに、関節が悲鳴を上げる。途中で何度も、もうやめようと思った。じゃが、そのたびに、心のどこかで「このままでは嫌じゃ」という、小さな声がした。


店の主は、ぶっさんと名乗った。

わしの苔むした姿を見ても、気味悪がるでもなく、ただ「しんどそうじゃねえか」と、長い付き合いの友人にでも語りかけるように、優しく声をかけてくれた。


わしの悩みを聞いた主は、こともなげに言った。「食べるんじゃなくて、浴びるもんだ」と。

そして、わしを大きな樽に入れ、何やら白い粉やキラキラした石を振り入れた。


次の瞬間じゃ。

シュワワワワワッ!

樽の中の水が、命を得たように泡立ち、無数の小さな泡が、わしの体を包み込んだ。

驚いた。じゃが、それ以上に、心地よかった。


シュワシュワという優しい刺激が、長年わしを苦しめてきた関節の汚れを、かき出してくれる。体を覆っていた重たい苔の鎧が、はらり、はらりと剥がれていく。石の肌に、水が直接触れる感覚。何百年ぶりに思い出した、懐かしい感覚じゃった。


体が、どんどん軽くなっていく。

胸のコアが、内側からぽかぽかと温かくなっていく。それは、主がわしを造ってくれた時の、あの温もりに似ておった。


樽から出た時、わしは生まれ変わっておった。

手足を動かしても、もうあの嫌な音はしない。すっ、と滑らかに動く。見下ろせば、苔一つない、生まれたての頃のような、つるりとした自分の体があった。


主は「体のポリッシュパウダーだ」と言って、あの魔法の白い粉をわしにくれた。


店を出て、森を歩く。足取りが、軽い。

今まで見過ごしていた、道端に咲く小さな花の色や、頭上の木々の葉の形が、はっきりと見える。世界が、こんなにも輝いておったとは、知らんかった。


わしは、空を見上げた。

役目はなくとも、わしはまだ、ここにいる。この軽くなった体で、この美しい森を、もう少しだけ歩いてみようかのう。かつて「守る」だけだったこの森を、今度は自分の足で、自分の目で、楽しんでみるのも悪くない。


主よ、感謝するぞい。

次にあの店を訪れる時は、もう少しだけ、背筋を伸ばして、胸を張って、会いに行くとしよう。わしの新しい人生の、恩人としてな。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ