第七話:ゴーレムと魔法の炭酸水 (2/3)
「心配いらねえ。今日の料理はな、『食べる』んじゃなくて、『浴びる』もんだ。あんたの体に溜まった、長年の垢と疲れを洗い流す、とびきり気持ちいい、魔法の炭酸水を作ってやるから、楽しみに待ってな!」
俺は厨房の奥から、一番大きな木製の樽を「よっこいしょ」と声を上げながら引っ張り出してきた。普段は雨水を溜めておくためのものだが、今日はこいつがゴホウさん専用の特製露天風呂になる。樽の中を綺麗に洗い、ぬるま湯をたっぷりと注いでいく。
「じいさん、まずはこっちに来て、この樽に入ってくれ。ちょっと窮屈かもしれねえが、我慢してくれよ。すぐに極楽気分にさせてやるから」
ゴホウさんは、不思議そうな顔をしながらも、俺の言葉を信じてくれたようだった。ギシギシと重い音を立てて、ゆっくりと樽の中にその石の体を沈めていく。
《ふむ……。温かい湯、というのも、悪くないもんじゃのう……》
体の芯までじんわりと温もりが伝わるのか、彼の心の声が、少しだけリラックスしたように聞こえた。
「さてと、ここからが本番だ。じいさん、今日の特別メニューを紹介するぜ」
俺はカウンターの上に、今日の主役となる三つの材料を並べてみせた。一つは、先日アナグマと交換したばかりの、淡いピンク色にキラキラと輝く岩塩。もう一つは、森で採れたレモンのような、握りこぶし大の酸っぱい果実。そして、最後の切り札が、以前、パンを焼くために手に入れておいた、白い謎の粉……俺の故郷の言葉で言う「重曹」だ。
「いいか、じいさん。あんたの体にびっしりと生えた苔は、湿気と、わずかに酸性の環境が大好きでのう。だから、そいつを根本から退治するには、アルカリ性の力で中和してやるのが一番なんだ。この白い粉は、そのための魔法の粉だ。石鹸みてえなもんだな」
俺はそう説明しながら、まずは岩塩をひとつかみ、樽の中にパラパラと振り入れた。
「こいつはミネラルの塊だ。長い年月で失われた、あんたの石の体に、滋養を与えてくれる。いわば、栄養ドリンクだな」
次に、酸っぱい果実をナイフで半分に切り、その断面をゴホウさんに見せる。
「こいつに含まれる『クエン酸』って成分が、後で面白い化学反応を起こす。それに、この爽やかな香りは、リラックス効果もあるんだぜ」
俺は果実をぎゅっと絞り、果汁を樽に注ぐ。爽やかで、清涼感のある香りが、ふわりと立ち上った。
《うむ……なんだか、心が洗われるような、いい香りじゃのう……》
ゴホウさんから、うっとりとした心の声が聞こえてくる。
「そして、仕上げだ。じいさん、心の準備はいいかい? ちょっと驚くかもしれんが、最高のショーの始まりだぜ」
俺は、白い粉――重曹を、布袋から樽の中に一気に投入した。
その瞬間、樽の中の水が、まるで生き物のように、シュワワワワワッ!と激しい音を立てて、勢いよく泡立ち始めた。無数のきめ細かい泡が、ゴホウさんの体を優しく、しかし力強く包み込んでいく。
《おおっ!? な、なんじゃ、これは! 体が、シュワシュワするぞい! くすぐったいような、気持ちいいような、不思議な感覚じゃ!》
「ははは、炭酸の力だよ。この無数の細かい泡が、あんたの体の関節に入り込んだ頑固な汚れや、苔のしつこい根っこを、優しく、だが確実に剥がし取ってくれるんだ。いわば、体全体のピーリングだな」
樽の中は、まるで高級なスパークリングウォーターのようだった。ゴホウさんは、生まれて初めて体験するであろう炭酸の刺激に、驚きながらも、どこか気持ちよさそうな表情を浮かべている。
その石の体から、長年こびりついていた黒い土汚れや、深い緑色の苔が、シュワシュワという音と共に、少しずつ、しかし確実に浮き上がってくるのが見えた。
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