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気まぐれ食堂ねこまんま〜動物好きおっさんの異世界飯テロ日誌〜  作者: はぶさん


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幕間:狩人の遠吠え

もうすぐ、満月が昇る。

それは、僕たちワーウルフにとって、誇り高き狩りの始まりを告げる、血湧き肉躍る合図のはずだった。でも、今の僕にとっては、ただただ恐ろしい、処刑台へのカウントダウンのようにしか聞こえなかった。


僕の名前はガル。群れの中では、一番のチビで、一番の弱虫だ。

物陰から、仲間たちがじゃれ合いながら爪を研ぐのを見つめる。ガリッ、ガリリッ、と、硬い木に鋭い爪が食い込む、力強い音。あの音が、僕にはたまらなく羨ましくて、そして憎かった。僕の爪は、同じように木に立てようとしても、ポロポロと、まるで乾いた土くれのように虚しく欠けていくだけ。そのたびに、仲間たちの嘲笑うような視線が、背中に突き刺さる。


「お前みたいな爪じゃ、ウサギ一匹捕まえられないな!」

「ガルは、いつまで経っても半人前だな!」


悔しくて、唇を噛む。でも、言い返せない。事実だからだ。

群れでの食事は、いつも最後。強い兄貴たちが、獲物の美味しくて栄養のあるレバーや心臓を喰らい尽くした後に、ようやく僕に回ってくるのは、硬くて筋張った肉や、しゃぶる骨ばかり。腹は満たされても、心は満たされない。体は、少しも強くならない。


満月が来るのが、たまらなく嫌だった。初めての狩りで、きっと僕はまた、何もできずにみんなの笑い者になるんだ。


その日も、僕は一人、みんなから離れた場所で、ボロボロになった自分の爪を見つめていた。涙がこぼれそうになった時、森の奥から、ふわりと、今まで嗅いだことのない、不思議で、温かい匂いが漂ってきた。何かに引き寄せられるように、僕はその匂いをたどった。


たどり着いたのは、一軒の小さな食堂だった。

そこで出会った旦那様は、ぶっさんと名乗った。彼は、僕の爪を一目見ただけで、その原因を、そして、僕が群れでどんな扱いを受けているかまで、全部言い当てたんだ。「強い奴らが美味いところを先に食っちまうだろ?」って言われた時は、心臓が鷲掴みにされたみたいにドキッとした。


そして、目の前に舞い降りた、でっかい翼の魔物グリフォン。彼が持ってきた、見たこともないくらい立派な獲物。


旦那様が料理を始めると、僕の鼻は、今まで経験したことのない匂いの洪水に支配された。肉の焼ける、野性的で、たまらなく食欲をそそる匂い。それは、僕の腹の虫を鳴らすだけじゃなく、体の奥底に眠っていた、野生の本能を無理やり叩き起こすような、抗いがたい香りだった。


目の前に出されたステーキは、僕が今まで「肉」だと思っていたものとは、全く違う、圧倒的な存在だった。

一口、かぶりついた。


その瞬間、僕の体中に、雷が落ちたみたいな衝撃が走った。

うまい。うまい。うまい!

肉の味、血の味、そして、今まで知らなかった濃厚なレバーの味が、僕の乾ききった体に、まるで恵みの雨のように染み込んでいく。力が、体の奥の奥から、マグマみたいに湧き上がってくるのが分かった。


気づけば、僕は皿まで舐めるように、全てを喰らい尽くしていた。

そして、自分の爪を見た。硬い。強い。まるで、生まれて初めて、本当の爪を手に入れたみたいだ。鋼みたいに、月光を鈍く反射して輝いている。


試しに、そばにあった柱に爪を立てる。

ガリィィィィィィィッ!

僕の爪が、深く、鋭く、いとも簡単に木を抉った。信じられない光景だった。


「ありがとう……!」


旦那様に頭を下げて、僕は駆け出した。

森を抜け、丘を駆け上る。空には、僕を照らす、まんまるな月。もう、あの月は怖くない。


僕は、天に向かって、生まれて初めて、腹の底から声を張り上げた。


「アオォォォォーーーーーンッ!」


それは、もう弱虫な僕の鳴き声じゃなかった。

群れの仲間たちに、そして、この森の全てに、己の存在を知らしめる、一人の狩人の、始まりの遠吠えだった。


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

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