幕間:精霊の涙と若葉の息吹
私の命は、森と共にありました。
私は、陽の光を浴び、土の恵みを吸い上げ、風にそよぐ一本の若木から生まれたドライアド。私の髪は、木の葉そのもの。この緑が、私の生命力の証でした。
けれど、いつからか、私の体から力が失われていきました。
髪に触れるたび、はらり、と黄色く枯れた葉が舞い落ちる。それは、私の命が、少しずつこぼれ落ちていくのと同じこと。本体である木が弱っているのです。このままでは、木も、私も、枯れて消えてしまう。
怖い。寂しい。どうすればいいか分からない。
そんな絶望の中、風の噂で、森の奥にある不思議な食堂の話を耳にしました。藁にもすがる思いで、私はふらふらと、その場所へ向かいました。
お店の旦那様は、ぶっさんと名乗りました。
彼は、私の姿を見ても驚かず、それどころか、私の髪を一目見ただけで、その原因を言い当てたのです。「光合成」と「ミネラル」。初めて聞く言葉でしたが、なぜか、彼の言葉はすうっと心に染み込んできました。この人なら、私を救ってくれるかもしれない。そう思いました。
彼が出してくれたのは、今まで見たこともない、素朴な料理でした。
お椀に入った温かい汁物、黒い粒々のかかった緑の和え物、そして真っ白なご飯。
おそるおそる、汁物を一口すする。
しょっぱくて、でも、どこまでも優しい味が、冷え切っていた私の体の芯まで、じんわりと温めていくのを感じました。緑の和え物を口に運ぶと、失っていた「緑の力」が、内側から満ちてくるようでした。
一口、また一口と食べるうちに、忘れていた感覚が蘇ってきます。
根が、土から養分を吸い上げる力強い感覚。
葉が、太陽の光を浴びて喜ぶ、きらきらした感覚。
食事が終わる頃には、私の体は、ぽかぽかと温かい力で満たされていました。
そして、自分の髪に触れた時、奇跡が起きたのです。黄色く枯れかけていた葉が、指先でふわりと、鮮やかな若葉色に息を吹き返したのです。
「あ……!」
嬉しくて、嬉しくて、涙がこぼれました。それは、絶望の涙ではなく、命の温かさを思い出した、喜びの涙でした。
旦那様は、帰り際に「土のお薬だよ」と言って、二つの小さな袋をくれました。
私はそれを宝物のように抱きしめ、自分の木へと急ぎました。
木の根元に、感謝の祈りと共に、もらった胡麻とワカメをそっと撒く。
すると、木が、私の本体が、喜んでいるのが分かりました。「ありがとう」と、風に葉を揺らして、私に囁きかけているようでした。
まだ、全ての葉が元気になったわけではありません。
でも、もう大丈夫。私には、あの温かい料理の味と、旦那様が教えてくれた「生きるための知識」があります。
明日からは、もっとたくさんの光を浴びて、もっとたくさんの水を吸い上げて、きっと、また森で一番元気な緑の髪を取り戻してみせる。
そう、強く心に誓いました。
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