第五話:森の精霊と光合成の話 (2/3)
「あんたの不調の原因は、十中八九、ミネラル不足だ。よし、任せとけ。体の内側から、足りない栄養をたっぷり補給してやる。今日は特別に、ヘルシーな和定食だ!」
俺は腕まくりをすると、早速厨房に立った。まずは米を研ぎ、炊き始める。そして、今日のメインとなる食材たちと向き合った。
「いいか、嬢ちゃん。葉っぱの緑色の素、『葉緑素』ってのは、実はすごく複雑な構造をしてるんだ。その中心には『マグネシウム』っていう原子が一つ、どっしりと構えてる。こいつがないと、葉緑素は形を保てない。あんたの葉が黄色くなっちまうのは、このマグネシウムが足りてない証拠でもあるんだ」
俺はそう説明しながら、保存してあったほうれん草をさっと茹で、冷水にさらす。水気を絞ったほうれん草を食べやすい大きさに切り、すり鉢で丁寧にすった胡麻と、自家製の出汁醤油で和えていく。
「そして、この胡麻や、これから味噌汁に使う豆腐や味噌の原料である大豆には、そのマグネシウムがたっぷり含まれてる。まさに『葉っぱの元気の素』ってわけだ」
次に、味噌汁の準備だ。鍋に出汁を張り、乾燥ワカメとさいの目に切った豆腐を入れる。ワカメは、海のミネラルをぎゅっと凝縮した、まさに天然のサプリメントだ。
《マグネシウム……。私の体に、足りなかったもの……》
カウンターの向こうから、少女の感心したような心の声が聞こえてくる。彼女は、俺が料理する手元と、食材の一つ一つを、興味深そうにじっと見つめていた。
出汁が温まったら、味噌を溶き入れていく。ふわりと立ち上る、味噌と出汁の香ばしい香り。それは、派手さはないが、心と体にじんわりと染み渡るような、優しい香りだ。
「仕上げに、ほうれん草には鉄分も豊富だ。鉄分も、葉緑素を作るのを助ける大事な栄養素だからな。これで完璧だ」
炊き立てのご飯、湯気の立つ豆腐とワカメの味噌汁、そして鮮やかな緑のほうれん草の胡麻和え。小皿には、箸休めの漬物も添える。
「お待ちどう。気まぐれ食堂特製、ミネラルたっぷり和定食だ。見た目は地味だが、今のあんたの体には、これが一番の薬になるはずだぜ」
俺は、お盆に乗せた素朴な和定食を、少女の前にそっと置いた。
彼女は、目の前に並べられた、今まで見たこともない料理の数々を、ただ静かに見つめていた。その瞳には、かすかな希望の光が灯っているように見えた。
ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。




