幕間:頑固アナグマと甘い衝撃
俺様の名前は、まだない。
この崖の洞窟に住み着いてから、ずっと一人だ。俺様の仕事は、この洞窟にあるキラキラしたしょっぱい石……「岩塩」を守ること。これは俺様の宝だ。誰にも渡すもんか。
毎日、洞窟の入り口でゴロゴロしながら、縄張りに侵入者がいないか見張るのが日課だ。今日も平和だ……と思っていた、その時だった。
ガサガサと、やかましい音。
見ると、でかい翼の鳥に、変な鶏、それに青くてぷるぷるしたやつ(スライム)を引き連れた、二本足の生き物が、俺様の縄張りにいやがった。しかも、俺様の大事な宝物を、ごっそり持っていこうとしてやがる!
「グギィィィィッ!(俺様の塩を、勝手に持ち出すんじゃねえ!)」
俺様は、ありったけの声で威嚇した。爪を立て、いつでも飛びかかれるように身構える。でかい鳥が翼を広げてきたが、知ったことか。この縄張りでは、俺様が一番強いんだ。
すると、二本足のやつが、鳥の翼の後ろからひょっこり顔を出した。そして、何か小さな、キラキラしたものを俺様の前に放り投げた。
なんだ、これは。毒か? 罠か?
ふん、と鼻を鳴らして無視しようとした。だが、なんだこの匂いは。今まで嗅いだことのない、脳みそがとろけるような、甘くて、うっとりする香り……。
俺様は、警戒しながらも、その小さな塊に近づいた。そして、ほんの少しだけ、舌先で舐めてみた。
その瞬間、俺様の世界はひっくり返った。
「んんんんまいっ!(なんだこの甘露は!)」
口の中に、果物の甘酸っぱさと、蜜の濃厚な甘さが爆発するように広がった。しょっぱい宝物も美味いが、これは、それとは全然違う、幸せの味だ!
気づけば、俺様は夢中でその塊を平らげていた。さっきまでの怒りなんて、どこかへ吹き飛んでしまった。俺様は、目をキラキラさせながら、二本足のやつを見つめていた。もっとくれ、と。
二本足のやつは、ニヤリと笑うと、「その岩塩と交換しないか?」と言ってきた。しかも、これからも時々、この甘い塊を持ってきてくれるという。
断る理由なんて、あるわけがない。俺様は、ちぎれんばかりに首を縦に振った。
やつらが帰った後、俺様はもらった蜜漬けを大事に舐めながら、洞窟の入り口に座っていた。
宝物の岩塩は少し減ったけど、代わりに、もっとすごい宝物を知ってしまった。
……次の「交換日」は、いつだろうか。
俺様は、生まれて初めて、明日が来るのが待ち遠しいと思った。二本足のやつが、またあの甘い宝物を持ってきてくれる日を、今か今かと待ちわびている。
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