第四話:ぶっさんの買い出しと物々交換 (3/3)
「よし、これで今日の目的は達成だな! みんな、本当にありがとうよ」
俺が手に入れた岩塩と山の実を抱えて言うと、コッコもプルンも、そしてグリフォンまでもが、どこか誇らしげな様子だった。自分たちの力が、誰かの役に立つ。その喜びは、種族を超えて共通のものらしい。
さあ、店に帰って祝杯(お茶会)だ!と、俺たちが意気揚々と崖を飛び立とうとした、その時だった。
「グギィィィィッ!」
裂け目の奥から、甲高い、怒りに満ちた声が響き渡った。そして、ずんぐりむっくりとした、白と黒の体毛を持つ獣が姿を現した。鋭い爪、力強い顎。ハチミツアナグマに似た、いかにも頑固そうな魔物だ。
《俺様の塩を! 勝手に持ち出すんじゃねえ!》
どうやら、この岩塩の洞窟の主だったらしい。彼は俺たちが持っている岩塩の塊を睨みつけ、威嚇するように唸っている。グリフォンが前に出て、俺たちを守るように翼を広げた。一触即発の空気だ。
だが、俺は慌てない。
動物の知識によれば、アナグマの仲間は、そのいかつい見た目に反して、あるものに目がないのだ。
「まあまあ、落ち着けって。あんたの縄張りを荒らすつもりはなかったんだ。お詫びと言っちゃなんだが、これでも食ってくれ」
俺はグリフォンの翼の隙間からひょっこり顔を出すと、懐から、ピクニックのおやつ用に持ってきた果物の蜜漬けを取り出した。甘い香りが、ふわりと漂う。
アナグマは、ピクリと鼻を動かした。その視線が、岩塩から蜜漬けへと移る。
《……なんだ、それは》
「美味いもんだよ。食ってみな」
俺が蜜漬けを一つ、彼の前に放り投げる。アナグマは最初、警戒していたが、甘い香りには抗えなかったらしい。おずおずとそれを口に入れると、その瞬間、彼の動きがピタッと止まった。
そして、次の瞬間。
《んんんんまいっ! なんだこの甘露は!》
彼の心の声が、歓喜に打ち震えている。さっきまでの怒りはどこへやら、目をキラキラさせて俺を見つめていた。
「どうだ? 気に入ったなら、その岩塩と交換しないか? これから時々、この蜜漬けを持ってきてやるからさ」
俺の提案に、アナグマはぶんぶんと、ちぎれんばかりに首を縦に振った。こうして、俺たちは平和的な物々交換を成立させ、新たな塩の仕入れルートを確保したのだった。
店に帰ると、俺たちは早速、祝賀会の準備に取り掛かった。
大きな鍋で、今日採ってきたばかりの山の実をコトコト煮詰めて、特製のジャムを作る。甘酸っぱい香りが、店中に満ちていく。
そして、そのジャムをたっぷりつけて食べるための、焼きたてのスコーン。手に入れたばかりの岩塩が、ほんのりと生地の甘みを引き立てて、最高の出来栄えだ。
「さあ、みんな、熱いうちに召し上がれ!」
テーブルを囲み、スコーンと温かいお茶で乾杯する。
コッコも、グリフォンも、プルンも、みんな夢中でスコーンを頬張っていた。自分たちで手に入れた材料で作った料理は、格別の味がするのだろう。
「みんなのおかげで、また店の宝物が増えたな。本当に、ありがとうよ」
俺がそう言うと、みんな照れくさそうに、だけど、とても嬉しそうに笑った。
仲間と働き、美味いものを分かち合う。これ以上のスローライフがあるだろうか。俺は、この温かくて賑やかな食卓に、心からの幸福を感じるのだった。
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