幕間:孤独な炎と初めての温もり
俺の体は、呪われているんだと、そう思ってた。
この、内側から燃え盛る炎が、俺から全てを奪っていく。
雪の上に落ちていた、一枚の青い羽根。綺麗だ、と思った。ただ、そっと触れてみたかっただけなのに、俺の指先が触れる前に、それは儚い灰になった。
また、壊してしまった。
美しいものも、温かいものも、この体はすべてを拒絶し、焼き尽くす。掌に残るのは、いつも虚しい熱だけだ。雪の冷たさだけが、呪われた自分の輪郭を、悲しいほどはっきりと教えてくれる。
だから、あの食堂を見つけた時も、中には入れなかった。
あそこには、温かい灯りと、優しい匂いがあったから。俺が近づけば、きっと、あの温かささえも、焼き尽くしてしまう。
そんな時、店の主が、外に出てきてくれたんだ。ぶっさんと名乗った彼は、俺の体を、少しも恐れなかった。それどころか、俺の呪いを、「温度計が壊れてるだけだ」と、いとも簡単に言いのけた。
彼が作ってくれたのは、雪の上で食べる、不思議な鍋料理だった。
ぐつぐつと煮える鍋。そこから立ち上る湯気は、温かいのに、何も燃さない。俺の体から溢れる、すべてを焼き尽くす熱とは違う。なんて、優しい熱なんだろう。
「この鍋が、お前さんを『みんな』の輪の中に、きっと帰してやるさ」
彼の言葉は、凍てついていた俺の心を、じんわりと溶かし始めた。
一口、食べた。
優しい出汁の味が、荒れ狂っていた俺の体の中の炎を、まるで、穏やかな雨が鎮めるように、すーっと、静めていく。食べるたびに、体が、心が、満たされていくのが分かった。
そして、食事が終わった時、彼は、雪の中から、凍った一枚の葉を拾い上げた。
「ほら、やってみな」
怖かった。また、灰にしてしまう。
でも、彼の目は、俺を信じていた。
おそるおそる、指先を、葉に触れさせた。
葉は、燃えなかった。
代わりに、俺の指先から伝わる穏やかな熱が、葉を覆う霜をゆっくりと溶かしていく。呪いだったはずの力が、氷を清らかな水滴に変え、その下から、美しい緑色の葉脈が瑞々しい姿を現したのだ。
涙が、溢れて止まらなかった。
マグマのように熱い、俺自身の涙が。
これが、葉っぱの筋の感触…。これが、雪の冷たさ…。俺は、今まで、何も知らなかったんだ。
初めて、世界に触れられた。初めて、俺の力が、何かを「生かした」。
ぶっさん様、ありがとう。
あなたの作ってくれた、あの温かい鍋は、俺の体の炎を鎮めてくれただけじゃない。その炎を、世界を温めるために使うんだと、そう、心に誓わせてくれた。
この温かい両手は、もう何かを焼き尽くすためだけのものじゃない。確かな希望を掴むためのものだ。
俺はもう、独りの呪われた怪物じゃない。ただの、一人の若者だ。
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