表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気まぐれ食堂ねこまんま〜動物好きおっさんの異世界飯テロ日誌〜  作者: はぶさん


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

101/300

第二十六話:マグマ獣と体温調節の話(1/3)

あの水晶の嬢ちゃんが希望を胸に森へ帰ってから数日。世界は深い雪に覆われた。

俺、仏田武ことぶっさんは、石窯で煮込んだシチューを味見しつつ、静かな雪景色を眺めていた。

「静かでいいもんだ。たまには、こうして一人で過ごすのも悪くねえ」

そんな独り言をこぼした、まさにその時だった。

カランコロン、と。助けを求めるような、弱々しくも切羽詰まったカウベルの音が響いた。


店の前の、真っ白な雪原に、ぽつんと、一つの影が現れた。

その体は、まるで溶岩が固まってできたかのように、ゴツゴツとした黒い岩肌で覆われている。そして、その体からは、陽炎のように、絶えず高温の湯気が立ち上っていた。マグマ獣、と呼ばれる種族の若者だろう。


彼は、店に入ろうとはせず、どこか羨むような、それでいて諦めたような目で、じっとこちらを見つめている。

ふと、彼の足元に、一枚の、青く美しい鳥の羽根が落ちているのが見えた。彼は、その羽根に気づくと、まるで宝物に触れるかのように、おずおずと、そのゴツゴツとした手を伸ばした。


触れたい。その美しさに、ただ、そっと触れてみたい。

そんな、切実な願いが、彼の背中から伝わってくるようだった。


だが、彼の指先が、羽根に触れる、ほんの数ミリ手前で、

シュッ…

と、乾いた音を立てて、美しい羽根は一瞬で燃え尽き、黒い灰となって、雪の上に儚く散った。


若者は、その灰を、ただ呆然と見つめている。その肩は、絶望に、小さく震えていた。

また、壊してしまった。美しいものも、温かいものも、この体はすべてを拒絶し、灰に変える。掌に残るのは、いつも虚しい熱だけだ。雪の冷たさだけが、呪われた自分の輪郭を教えてくれる。


(…ただ熱いだけじゃねえ。陽炎の揺らめき方が不規則すぎる。まるで、エンジンの回転数が安定しねえポンコツみてえだ。あいつ自身、その熱を全くコントロールできてねえんだ)


俺は、コートを羽織ると、店の外へと出た。

俺の姿に気づいたマグマ獣は、ビクッと体を震わせ、後ずさりしようとする。


「おい、待ちな。別に、取って食おうってわけじゃねえよ。ただ、あんたのその熱、どうにかなるかもしれねえと思ってな」


俺は、彼から安全な距離を保ちながら、優しく声をかける。


《……どうにも、ならない。俺のこの熱は、呪いなんだ。触れた草木は燃え上がり、俺が歩いた後の雪は、春まで溶けたままになっちまう。仲間とじゃれ合おうとしても、相手を火傷させてしまうのが怖くて、いつも独りでいるしかない。この、制御できない炎を、どうにかして、穏やかな温もりに変えたいんだ…》


なるほど。強大すぎるがゆえの、孤独か。

俺は、彼の体を、じっくりと観察する。これは、ただの体質じゃない。体の、もっと根源的な機能が、暴走している状態だ。


「旦那、あんたのその悩み、呪いなんかじゃねえ。あんたの体の中にある、『温度計』が、ぶっ壊れちまってるだけなんだよ」


《温度計…?》


「ああ。生き物の体にはな、車で言うサーモスタットみてえな、体温を一定に保つ機能があるんだ。だが、そいつを正常に動かす潤滑油が、『電解質』…まあ、塩みてえなミネラルなのさ。あんたの体は、その強大な熱を維持するために、そのミネラルを燃やし尽くしちまって、温度計が暴走しちまってるのさ」


俺の説明に、マグマ獣の若者は、呆然としていた。


「よし、任せとけ」


俺はニヤリと笑うと、孤独な炎に苦む若者に、力強く宣言した。


「今日は、君の荒ぶる炎に、最高の冷却水を注いでやる!この、雪の上でな!」


ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございます!皆さんの感想や、フォロー・お気に入り登録が、何よりの励みになります。これからも、この物語を一緒に楽しんでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ