幕間:希望の雫と虹のシチュー
かつての僕の誇りは、砕け散ってしまいました。
この白銀の毛並みも、額で輝く宝石も、僕たちカーバンクルにとっては、仲間との絆を繋ぐ何よりも大切な宝物でしたのに。
毛は抜け落ち、皮膚は赤く爛ただれ、狂おしいほどの痒みが、四六時中、僕を苛みました。そして何より辛かったのは、額の宝石が、まるでただの石ころのように、光を失ってしまったこと。仲間たちの同情の視線も、ヒソヒソと交わされる陰口も、一本の鋭い棘のように僕の心を深く、深く傷つけました。
もう、僕は、美しいカーバンクルではない。ただの、醜い、出来損ないだ。
絶望が、冷たい泥のように、僕の心を覆い尽くしていました。
そんな時、風の噂で耳にしたのです。森の奥に、どんな悩みも解決するという、不思議な料理人がいると。
料理人が、この呪いのような病を? 馬鹿げた話です。でも、わたくしには、もうそれにすがるしかありませんでした。
お店の主、ぶっさん様は、わたくしの無残な姿を見ても、憐れむでもなく、ただ静かに、その優しい瞳で見てくれました。そして、わたくしの体の不調を、不思議な言葉で解き明かしてみせたのです。「体の中の見張り番が、暴走しているだけだ」と。
彼が作ってくれたのは、「レインボーシチュー」という、美しい料理でした。
白いスープの上に、赤、黄、緑の野菜が、まるで希望の虹のように輝いている。その虹が、光を失った僕の瞳に映った時、なぜだか、涙がこぼれそうになりました。
一口、それを口に含んだ瞬間、わたくしの中で、奇跡が始まったのです。
温かく、優しい味が、荒れ果てた体の隅々まで、染み渡っていく。一口食べるごとに、あれほど頑固だった痒みが、まるで薄氷が溶けるように、すーっと引いていくのが分かりました。
そして、食事が終わる頃、信じられない奇跡が起きました。
あれほど固く、冷たかった額の宝石が…内側から、ふわりと、温かい光を灯したのです。
それはまだ、消えかけの灯火のような、小さな光でした。でも、それは紛れもなく、僕が失っていた、生命の輝きそのものでした。
涙が、溢れて止まりませんでした。
でも、それは絶望の涙ではありません。失いかけた誇りを取り戻す、あまりにも温かい、希望の雫でした。
ぶっさん様、ありがとうございます。
あなたの作ってくれた、あの温かい虹のシチューは、わたくしの体を癒してくれただけではありません。自分の体を呪うことをやめ、その輝きを、自分の手で取り戻していくという、確かな希望をくれました。
もう、僕は、独りじゃない。
この手の中にある小さな光を、必ずや、かつての僕よりもっと大きな輝きにしてみせる。ぶっさん様、どうか見ていてください。そう、強く心に誓ったのです。
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