5.エヴァ・グリーン
クール帝国に向かう前に、私にはどうしても寄りたい場所があった。
アーウィン王国からほど近い宿場町。
ここに『蒼穹の鳥』の重要人物がいるのだ。
私達は場末の酒場に入った。
子供だけの客なんて珍しいだろうから、私達は店中の客から注目を浴びた。
私は店の一番奥のテーブルに突っ伏して、寝ている客を揺り起こした。
「ねえ、お父さん。
起きてよ、お腹減った!」
他の客達は
「何だ、客の子供か」
と私達に興味を失い、それぞれの会話に戻った。
「…私に子供はいませんよお。
胤無しですもん、私ぃ…」
おや、『蒼穹の鳥』に書かれていなかった新情報。
顔を上げた酔っぱらい客は、長い白銀の髪の下から美しい緑の瞳を覗かせた。
エヴァレット・グリーン。
大魔法使いにして、『蒼穹の鳥』のシオンの師匠。
そして、何とラヴィの叔父なのだ。
『蒼穹の鳥』で、城中の人間が邪神の生贄にされた後、命からがら逃げ出したシオンは、城の近くで野垂れ死にそうになっていた所、エヴァに拾われる。
エヴァはシオンを実の子供のように可愛がり、魔法の師となる。
だが、エヴァは長年の不摂生が祟り、余命宣告されてしまう。
数年後、カレンの命令でシオンの命を奪いに来たラヴィに、ボロボロの体で立ち向かったエヴァは、命を落とす。
その時、エヴァはラヴィの叔父だと明かすのだ。
ラヴィの実母は、エヴァの年の離れた姉だった。
ラヴィは実母にそっくりだったので、分かったらしい。
「…あれえ?
姉さん?
何かちっちゃくなりました?
この辺とか…」
と言いながら、エヴァがラヴィの胸に触ろうとした瞬間。
スッパアアアアン‼
私は思いっきり、エヴァの頭を叩いた。
「…お父さん?
何してやがるの?
今日が命日になってもいいの?」
私がとびきりの笑顔を見せると、エヴァだけじゃなく、シオンとラヴィも抱き合って震えていた。
エヴァが幼い頃、ラヴィの実母が駆け落ちした。
その直後、エヴァの両親が流行病で亡くなり、エヴァも流行病の後遺症で子供が出来なくなったそうだ。
エヴァは必死で努力して、世界に数人しかいない大魔法使いにまでなったものの、家族がいない寂しさに耐えられず、荒れた生活を送っていたらしい。
私達は場所を変え、エヴァの泊まっている宿の部屋で話した。
私はエヴァを説得し、手遅れになる前に、治療を受けさせようと思った。
エヴァは『蒼穹の鳥』のシオンの父代わりだった人だし、ラヴィの叔父でもある。
死なせる訳にはいかないのだ。
だが、エヴァはヘラッと笑って言った。
「治療なんて、必要ないですよお。
どうせ、私には家族もいませんし。
私が死んでも、誰も困りませんから」
私は静かにブチギレた。
「ああ、そう。
家族がいないから、治療しない訳。
じゃあ、ラヴィをあげる!
家族がいれば、治療するんでしょう!?」
「ちょっと、カレン‼
勝手に僕をあげないでよ!」
ラヴィが慌てて割って入った。
私はラヴィをキッと睨んで、叫んだ。
「言っとくけどねえ!!
私、『ラヴィアン・グレイ』なんかと結婚しないから‼
何よ、『灰色の人生』って‼
そんな名前だから、散々な人生送る羽目になるんじゃない‼」
すると、ラヴィは負けじと叫んだ。
「はあ?
絶対、婚約破棄なんかしないからね!!
『ラヴィアン・グリーン』なら、いいの?!
だったら、なってやるよ!!
『緑色の人生』に‼」
この叫びによって、ラヴィがエヴァの養子になる事が決定した。
家族を得たエヴァは治療を受ける事を了承し、ホクホク顔で私達と一緒にクール帝国に向かった。
名前の意味:
エヴァ・グリーン=朽ちる事がない