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4.宰相の企み

王妃について調べる時、私は王妃とタレスの不倫関係を重点的に調べた。

『蒼穹の鳥』を読んだ時から、怪しいと思ってたんだよね。

『深夜に王妃の居室で、王妃とタレスがワインを酌み交わした』だの、

『明け方、こっそりとタレスが王妃の寝室から出て来た』だの。

明らかに不倫関係を匂わせる記述があったから。

私が侍女に扮して聞き回ってみると、王妃とタレスの不倫の証言が出るわ出るわ。

ほぼ城の全使用人が知っているのでは、というほどに噂は広がっていた。


こうなると、打つべき手は一つだ。

私は文官の頂点に立つ宰相に、私の生母の実家であるクール帝国に行く旨の書類を提出した。

すると、すぐに宰相が私を訪ねて来た。


「第一王女殿下にはご機嫌麗しゅう。

本日は2、3、お聞きしたい事が御座いまして、罷り越しました」

優雅に挨拶した宰相は、私の隣にシオンが座っているのを見て、動揺した。

「…これは、第一王子殿下。

ご機嫌麗しゅう。

第一王女殿下のお側に居られるとは存じませんで、失礼を致しました」

確かに宰相も、王妃から命を狙われている私の側に、シオンがいるとは思わなかっただろう。


「つい先日から、仲良くなりましたの。

ね?シオン」

私がシオンに笑いかけると、シオンも嬉しそうに頷いた。

「そ、そうで御座いましたか。

ご姉弟仲睦まじくていらして、何よりで御座います」

宰相は動揺を隠すように話題を変えた。

「それでですね、第一王女殿下。

この、クール帝国にお出でになる、というお話で御座いますが」

「ええ。

クール帝国の皇帝陛下にご挨拶を、と思いまして。

皇帝陛下の姪であるわたくしが、一度もご挨拶した事がないなんて、不敬ですもの」


私が『皇帝陛下の姪』を強調して言うと、宰相は汗を拭きながら、言った。

「さ、左様で御座いますか。

ですが、第一王子殿下まで御一緒にお出でになる、と仰るのは如何なものかと。

王妃殿下には御承諾頂いたのでしょうか?」

「いえ、何度か

『王妃殿下にお目にかかりたい』

と申しましたが、

『忙しいので、またの機会に』

とばかり仰って」

私が憂いを帯びた顔で言うと、宰相は頷いた。


「左様で御座いますか。

ですが、王妃殿下の御承諾なく、第一王子殿下の長期外出を承認する訳には…」

私は宰相の言葉に被せるように、核心を突いた。

「そう言えば、宰相様は最近になって、ご養女を迎えられたとか。

大変お美しい方と評判ですわね。

近い内にお会いしたいですわ」

私の言葉に、宰相の額から汗が噴き出した。


「は、はい…。

そうで御座いますね…。

では、第一王女殿下がクール帝国よりお戻りになりましたら…」

しどろもどろに言う宰相に、私はにっこり笑って言った。

「そうですわね。

シオンも一緒に、ね?」

私が言うと、シオンも笑って頷いた。

「は、はい…。

お早いお帰りをお待ちしております…」

宰相はシャワーでも浴びたかのように、汗びっしょりで帰って行った。


宰相は最近になって、自分の妾が産んだ成人したばかりの庶子を、一旦他家に養女に出し、更に自分の養女に迎えた。

庶子を政略結婚に使うつもりで出自を整えたのだろうが、侯爵家以上の高位貴族に、婚約者や妻がいない者はいない。

という事は、今いる婚約者か妻を追い出した上で、宰相は自分の娘を後釜に据えるつもりなのだろう。

追い出す為の理由が必要だが、タレスとの不倫が城中に広がっている王妃なら、理由は充分だ。

あと邪魔なのは、シオンと私だけ。

2人まとめて不在となるなら、宰相にとって、これ以上ない程のチャンスだ。


ラヴィは美少年顔を生かして、宮廷薬師から『象でもイチコロ』という睡眠薬を入手した。

私はそれを王妃のお気に入りのワインに混ぜ、侍女の振りでこっそりと、王妃のワイン棚の一番手前に置いた。

後は、王妃とタレスが密会するのを待つだけ。


私は侍女に扮して、王妃の居室にタレスが忍んで入ったのを確認すると、すぐに王妃の宝石箱を漁った。

そして、足がつきにくい、小さめの宝石を選んで、いくつか懐に入れて立ち去った。

どうせ、これから王妃は宝石どころではなくなるのだから、旅の資金の足しにさせて貰うつもりだ。

既に、亡くなった私の生母と私の持ち物は全て、金貨と小さな宝石に変えてある。

私とシオンとラヴィ、3人のクール帝国への旅は、潤沢な資金のお陰で余裕のある旅になるだろう。

私達はまず、私やシオンの付き人達を連れて、城を出た。

そしてすぐ、「やっぱり城下街で買い物だけして帰る」と言って、付き人達を馬車ごと城に帰し、予め用意しておいた馬車に乗って、クール帝国に出発した。


私達の不在がバレる前に、いつまで経っても起きて来ない王妃をメイド長が起こしに行くだろう。

そして、あられもない姿の王妃とタレスがベッドで爆睡しているのが発見される。

城中がひっくり返る程の騒ぎになるだろう。

とても、存在自体話題にもならない王女や、親から忘れられた王子の事など、探す余裕もないくらいに。


それからしばらく経って、アーウィン王国の王妃が亡くなり、宰相の娘が新しい王妃となった事が発表された。

王妃の側近であったタレスという男が王妃に殉じて自死した、という話も伝わったが、王妃の産んだ王子と、前王妃の娘である王女の事が語られる事はなかった。




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