2.今世もハードモードです。
『蒼穹の鳥』の中で、カレンはアーウィン王国の第一王女だ。
産まれつき魔力の少ないカレンの為に、王である父は、国で一番魔力の強い男の子を見つけ出し、カレンの婚約者にした。
これがラヴィアン・グレイだ。
カレンはラヴィを奴隷のように扱い、利用するだけして捨てる。
ここまで聞いて、ラヴィは
「酷いな。
カレンは僕の事、捨てるの?」
とチラッとこちらを見て、言った。
「すっ、捨てないよ!」
私は必死に言った。
だって前世の私の最推しは、ラヴィだったんだから。
「そっか」
ラヴィは嬉しそうに笑った。
ラヴィに産みの親に会いたいか聞くと、ラヴィはあっさり、
「要らない」
と言った。
ラヴィの親はラヴィの身柄と引き換えに金貨を何枚か貰い、嬉しそうに帰って行ったらしい。
それが今生の別れと思ったので、もう会う必要はないのだそうだ。
「それにしても、どうして『蒼穹の鳥』のラヴィはカレンの奴隷になったんだろう。
弱みでも握られてたのかな?」
ラヴィが考え込んだ。
「違う。
カレンに魅了されたの」
私が言うと、ラヴィは驚いた顔をした。
「魅了?
いや、無理でしょ。
カレンは魅了の魔法を持ってないもの」
「そう!
そうなんだよ‼」
私は心の底から叫んだ。
『蒼穹の鳥』で、魔力の少ないカレンの唯一の武器は、魅了だった。
魅了は希少な魔法で、カレンは魅了で色んな人間を籠絡しては、奴隷のように使役した。
だが、今世の私は魅了の魔法を持って産まれなかった。
魅了が使えなければカレンなんて、雑魚中の雑魚だ。
やっぱり私の人生、今世もハードモードだった。
ラヴィに『蒼穹の鳥』のあらすじを話すと、ラヴィはしばらく考えて、言った。
「…これ、詰んでない?」
「…やっぱり?」
私はガクッと肩を落とした。
『蒼穹の鳥』で、カレンは自分が女王になる為、邪魔な異母弟のシオンと継母の王妃を殺そうとする。
王妃は自分とシオンの命を守る為、邪神の信者となった。
邪神の神官タレスは、シオンに呪いをかけ、シオンの魔力を奪って、アーウィン城中の人間を邪神の生贄にしてしまう。
こうして、アーウィン王国は一夜で滅びるのだ。
「いや王妃、何で邪神の信者になった?!」
と前世の私も思ったものだ。
しかも、今の王妃も既に邪神の信者だ。
何故なら、王妃の側近は邪神の神官タレスだから。
誓って今世の私は、シオンも王妃も殺そうとしていない。
というか、逆に私の方が王妃に命を狙われている。
ラヴィがいなければ、何度命を落としていたか分からない。
もしもシナリオの強制力があるのだとしたら、中ボスどころか、小ボスにすらなれない今の私を排除しようとする力が働いても、おかしくないかも知れない。
私が生き延びる為には、この国から逃げる他無いだろう。
いくらラヴィが優秀でも、邪神相手に勝てる訳がない。
だが、シオンを邪神に奪われれば、いずれこの国は滅びる。
そして、多くの生贄を得た邪神は力を増し、世界を滅ぼそうとするのだ。
ーーという事は。
シオンを誘拐するしかない、のか?
「ーー誘拐。」
ラヴィは渋い顔をした。
シオンの母親である王妃が、既に邪神の信者なら、いつシオンが邪神に呪われてもおかしくない。
一刻も早く、シオンを王妃から引き離さなければ。
だが、シオンはこの国の第一王子だ。
誘拐なんてしようものなら、死刑は免れない。
「大体、シオン王子を誘拐したとして、その後はどうするの?
僕とカレンだけならともかく、シオン王子まで放浪の旅に出られる訳がないよ」
ラヴィの言う事は最もだ。
「あてはあるよ。
すっごく嫌だけど」
私が深い溜息をつくと、ラヴィは話の先を促した。