1.前世はハードモードでした。
思えば私の人生は、最初からハードモードだった。
私の両親は子供の心のまま、大人になってしまった人達だった。
彼らは大人が出来る事は子供にも出来ると思い込み、3才の私に包丁を握らせた。
結果私は大怪我を負ったが、両親は
「娘が勝手に包丁を持ち出した」
と言い張り、外面の良い両親を周りの大人達は信じた。
両親の異常性に気付いたのは、母方の祖母だけだった。
祖母は私をなるべく両親に関わらせないように育てたが、祖母の目を盗んでは両親に連れ出され、私は度々酷い目に遭った。
祖母は私の身を案じ、身の回りの事や簡単な家事は、自分で出来るように仕込んでくれた。
私が11才の時、祖母が亡くなった。
その1年後、弟が産まれた。
私は『嘘やろ!?』と思った。
それでなくともハードモードの人生で、これからは弟も守らなくてはならないなんて。
私は頑張った。
父が弟を危険な場所に連れて行こうとするのを、体を張って止めた。
母が弟に包丁を持たせようとするのを、
「次やったら、お前のピー(放送禁止)をピー(放送禁止)して、ピー(放送禁止)してやる」
と脅して止めさせた。
両親が連れ出したまま、何処かに置き忘れた弟を探して夕暮れの街を走ったのも、一度や二度じゃない。
私は高校を卒業したら、弟を連れて逃げようと思った。
その為にはお金が必要だから、年齢を誤魔化して深夜のバイトを入れまくった。
あと半年で高校卒業、という所で私は交通事故で死んだ。
ーーという前世を思い出したのは、私が9才の時。
腹違いの弟の、6才の誕生パーティーの最中だった。
呆然としたまま、固まってしまった私を部屋に連れ帰ってくれたのは、私の婚約者、12才のラヴィアン・グレイだった。
ラヴィアン・グレイ。
前世で私が大好きだった冒険小説『蒼穹の鳥』に出て来るキャラだ。
という事は。
私、カレン・ド・アーウィンは。
主人公、シオンの腹違いの姉で。
中ボスとして、さっさと始末される、あのカレンか!?
『蒼穹の鳥』の中で、主人公シオンはドアマットヒーローだった。
幼い頃から、腹違いの姉に命を狙われ。
邪神に呪われて、魔力と寿命を奪われ。
大切な人達を次々と失い。
それでも、どれだけ踏みつけられても、立ち上がって前に進む。
そんなヒーローに憧れて、私は前世の弟を『シオン』と名付けたー
ーー訳ではない。
前世の両親は、
『生後14日以内に、新生児の名前を付けなければならない』
というルールを忘れており、役所に行く車の中で、私に
「10分で考えろ」
と弟の名前を考えさせた。
私はその時読んでいた『蒼穹の鳥』のシオン以外、名前を思いつかず、弟をシオンと名付けたのだ。
私が思い出した事を必死にラヴィに伝えると、ラヴィは
「カレンには前世の記憶があるって事?」
とすぐに理解してくれた。
流石、国一番の秀才。
私はラヴィと一緒に、このハードモードの人生をどうやって生きていくか、考えた。