親友の彼女のラブコール処理問題
親友に「彼女が出来た」と報告された放課後。
僕は、とある人物から呼び出しを受けていた。
「どうも来てくれてありがとう、瀬戸くん」
非常階段に腰掛けている彼女は、埃っぽいこんな空間に居るというのに、ドラマのワンシーンかと錯覚させてくるクールビューティー。
そう何を隠そう、彼女こそが僕の親友、夏目朝日の心を見事に射止めた美少女。
雪白璃衣だ。
「もう朝日くんから聞いてると思うけれど……私たち、付き合うことになったわ」
はは、知ってるよ、クソが。
「良かったね」
「……良かっただなんて、微塵も思ってなさそうなその顔で言われても……相変わらずね、瀬戸くん」
はあ、と雪白さんは盛大な溜め息を吐いた。
雪白さんは、階段から立ち上がり、スカートについた埃をはたいた。
そして、僕の前に立つ。
「今日呼び出した理由は、分かってると思うけれど、改めて貴方に感謝を伝えたかったの。貴方が色々と手を貸してくれなかったら、朝日くんは私に見向きもしなかったと思う」
いや、別にそんなことはなかったと思うけど。
あの鈍感王子は、雪白さんの自分へ向いている好意に疎かっただけで、時間の問題だったはずだ。
たとえ、僕が手を貸さなくたって。
このお似合いの2人は、くっついていただろう。
などというのは、悔しいので、言ってやらないが。
「とにかく、貴方のおかげで、朝日くんと付き合うことが出来たのは確か。
だから、ありがとう瀬戸くん」
「……どういたしまして」
若干不貞腐れたように言う僕を意にも介さない様子で、雪白さんが微笑む。
こういうところ。
ほんと、悔しいけどお似合いなのだ。
「……はあぁ〜、それにしても良かったわ。瀬戸くんが居てくれて!お陰で私の心臓が死ななくて済みそうよ。これからも、今までみたいに私の話聞いて頂戴ね、よろしくよ」
ほっと一息ついたように、胸を押さえる雪白さん。
……は?
いやいやいやいや、待て待て待て。
コイツまじか?
僕の心臓を殺すつもりか?
あの『朝日くん朝日くん朝日くん朝日くん、好き好き好き好き好き〜〜!!』のラブコールを僕にこれからも聞かせるつもりか?
付き合ってない時でさえ、朝日くんがこんなことしてくれたあんなことしてくれたと、聞きたくもない惚気を聞かせてきたのを?
恋人になってレベルアップした惚気を?
僕に聞けと?
ふざけるなボケが。
「嫌だから。自分で処理しろよ、あのクソデカ朝日コール」
「え……!そ、そんな!瀬戸くんに聞いてもらえなかったら、私朝日くんへのこの爆発しそうな感情を誰に伝えればいいの……?」
「知らないよ、クソが。何で僕がそんな拷問みたいなことを引き受けなきゃならない。クールぶってないで朝日にそろそろあの本性見せろ、猫被り女」
「そそそ、そんな……!もし、朝日くんにあんなあんな私のアホ面晒したら、申し訳なさと恥ずかしさで二重の意味で死んじゃうっ!!!朝日くんに捨てられちゃう……!!」
「は?僕の朝日を舐めるなよ!そんな彼女のアホ面ひとつ見たくらいで捨てるような男だって言うのか!」
「ちょっと、朝日くんは、私のよ!何を言ってるの!朝日くんなら、神の如き優しさで私のアホ面をフォローしてくれるに決まってるじゃない!って、違う!そういう問題じゃないのよ!!私の彼女としての、女としての、プライドの話!!」
「そんなクソみたいなプライド、今すぐその辺の池に捨ててこいや!!とにかく、僕はもう二度とお前の惚気は聞いてやらない!!もう付き合った以上、僕が手を貸してやる義理はない!!」
「……そんな…!」
絶望に打ちひしがれた表情を浮かべる雪白さん。
僕はもう話を切り上げてさっさと解散しようと思ったのだが、それより早く雪白さんが言葉を発した。
「……ま、待って頂戴。分かった、取引をしましょう」
「取引?どんな条件を出したって、僕の意向は変わらな……」
「私と朝日くんが付き合うことになったのは、朝日くんが告白してくれたからなの」
…惚気か?
この状況でなお、親友ガチ勢の僕にコイツは惚気るつもりなのか?
「それが何だって言うんだ」
「朝日くんがどんな風に告白したか……言葉も、シチュエーションも、貴方なら、気になるわよね?私と同じ朝日くんガチ勢の貴方なら、ね……」
雪白さんは、にこり、と勝利を確信した笑みをこちらに向けてくる。
癪に障る。
思い通りになると思ってんのか、僕が。
「おいおい、あまり僕をなめるなよ」
「いい?私の朝日くんへのラブコールをちょぉっと我慢するだけで、貴方は公式から供給が来るのよ?それも、貴方が知らない朝日くんの彼氏としての一面をね……?とっても気になるでしょ!?貴方にとっても、悪い話じゃないわよね??だから、これからも朝日くんに向けるには重すぎる私の愛の叫びを、貴方も一緒に叫んで頂戴!」
「ふん。それで僕を釣れると思ったら、大間違いーーーーー」
そう、答えなど分かりきっている。
ふん、と僕は鼻を鳴らした。
「ーーーーではないのが、ムカつくぅぅぅ…!!おい、くそ、雪白さん、その提案乗ってやるよ!」
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「でね、でね、朝日くんたら、私の手をきゅって掴んで……!ぎゅっ、じゃないのよ!きゅっ、っていうのがポイントなのよ!握ってもいいのかな、大丈夫かなっていう、ちょっと不安げで緊張が伝わってくるあの絶妙な力加減が、もう私、理性が飛びそうになって……!!すこぶるかっこいいのに、不慣れなのがミスマッチで可愛いすぎて……!!」
「うわ……!まじで解釈一致だわ……!強引になりきれないけど、肝心なところで繰り出すクリティカルヒット。あんなん、誰でも堕ちるに決まってるよな。なのに、一途なのが最高なんだよな……」
「ほんとそれなの……!!ほら、朝日くんって誰にでも優しいじゃない?だから、好きな人だから特別感あるみたいなのはないのかと思ったら、ありまくり……!!反則すぎる!!私の心臓いくつあっても足りないのだけれど、どうすればいいの!!」
「知らん、そんなん、勝手におやすみになってくれ。いや、特別感出してくるのは、最高すぎ……うわ、惚れるわ……」




