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悪役令嬢もののWeb発小説の世界に転生したら僕が聖女の兄で、悪役令嬢から王子を奪った妹がざまぁされそうになっていた  作者: 丹羽夏子


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第29話 ぼくの治世を君が始めてよ

 それからというもの、セシルは昼休みや放課後といった自由時間をあえて生徒会室で過ごすようにした。

 ナタニエルがセシルを探し回らなくても済むようにするためだ。


 セシルのほうからナタニエルがいる低学年の校舎に行くのは避けた。

 生徒会役員であるセシルが自分は使わない棟に入ると目立つからだ。


 少しでも目立たないようにしたほうがいい。

 ナタニエルはセシルと二人きりでの隠し事をしたがっている。

 誰がいるかわからない教室棟ではなく、だいたいの時間セシルが一人きりであると思われる生徒会室で待ち構えていたほうがいい。


 幸か不幸か、生徒会室に来るのはセシルだけになっていた。


 誰もいなくなってしまった。


 アリスも。

 エルンストも。

 マテオも。

 ローレンツも。


 そしておそらくヴァルトラウトも。


 でも、セシルがいる。


 セシルが学園の平和を、国の平和を、世界の平和を守る。




 案の定、ナタニエルはセシルが生徒会室で一人で過ごしていることにすぐ気づいたらしい。


 フレデリク王に呼び出されてナタニエルの世話を頼まれた日の翌々日の昼休み、ナタニエルが生徒会室に現れた。


 彼はご機嫌の様子で応接セットのソファから立ち上がったセシルに近づいてきた。


「風の便りに君がぼくと接触したがっていると聞いたよ」


 セシルがあえて友人にそういう情報を流しておいたのだ。セシルは顔が広い。話が誰かから誰かに伝わってナタニエルに届いた。


「嬉しいな。君がぼくのものになってくれたらとずっと考えていた」

「お供致します」


 ためらわずに言った。


「この前、二人での隠し事をしたいとおっしゃっていたのは、何だったんですか? 改めてお話を伺いたいです」

「あの女はいいの?」


 ヴァルトラウトのことだろう。

 前回会った時に割って入ってきたので気にしているのだ。


 胸は痛む。

 ヴァルトラウトはセシルがこれから悪の王になるに違いないナタニエルと接触して危険な目に遭うのを心配している。

 申し訳ない気持ちはある。


 けれど、セシルは、自分の役割を愚直にこなすしかない。


 もはやこの世界はふくすべ本編から逸脱した。

 ヴァルトラウトが女王になる日はたぶん遠のいている。

 それでも、セシルは、目の前の平和を守りたい。


 ごめん、ヴァルトラウト、と心の中で謝る。

 彼女のためにできることは、目の前の危機を回避してから考える。


 わかってくれるはず、などという傲慢なことを言うつもりはない。

 その場合は、セシルを責めてほしい。


 セシルは、セシルの人生を生きる。


 他の誰でもなく、ヴァルトラウトがそう勧めたのだ。


「見てほしいものがあるんだ」


 ナタニエルの目が、ぎらぎらと輝いている。


「一緒に来て」


 セシルは「はい」と頷いて、部屋から出るナタニエルの後をついていった。



 ナタニエルが向かった先は、二年生の教室がある棟だった。


 あたりは静まり返っている。授業中だ。時々教師が聞こえるだけで、妙な緊張感に包まれていた。


 セシルはナタニエルに出席率がどうこうとは言わなかった。ヴァルトラウトはああ言っていたが、公務で出掛けることもある王族の彼の出欠席を気にする教師はきっといないだろう。


「こっち」


 セシルは驚いた。

 建物の奥にある空き教室の壁、黒板に向かってナタニエルが手をかざすと、黒板が動き出したのだ。


 黒板が上に動いて天井につくと、今度は黒板の下の壁が動いた。


 地下に続く階段が、現れた。


「魔法ですか」

「うん。王族の魔力にしか反応しない魔法の壁なんだ」


 ナタニエルの手が、ほんのり白く輝いている。

 王族はどんな属性の魔法でも使える。驚くほどのことではない。問題はこんな密室が学園内の、それも休み時間は生徒たちが入り込める場所にあったことだ。


「こんなところ、よくご存じでしたね」

「この学園は王城の敷地内だからね」


 ナタニエルが階段をおり始める。セシルも足を進める。ナタニエルが一段おりるたびに壁の左右に取りつけられていた松明が燃えて部分的に明るくなり、足元が照らされる。


「学園内のあちこちに抜け道がある。万が一王都に攻め込まれ王城が陥落した時に学園の中から外に出るためだ」

「なるほど……」

「王族の子供がこの学園に通う理由のひとつでもある。ぼくらはこういうところを学んでいく」


 一種の避難訓練か。

 エルンストもきっと知っていたに違いない。

 あんなにそばにいて気づかなかったセシルはどうかしている。

 アリスのせいでどうかしていたんだな、と思う。


 アリスがいた学園生活はもうはるかかなた昔の話になってしまった。


 彼女が恋しい。またすべてをめちゃくちゃにしてほしい。

 でもだめだ。それは逃げだ。


 セシルは、現実と戦う。


 階段が終わった。

 目の前は真っ暗な闇だった。


 背後の松明の炎が揺れる。


 ナタニエルがポケットから何かを取り出した。十センチほどの折り畳み式のナイフのようだ。ナタニエルがそれを操作して一本のナイフの形に整えた。


「何をなさっているんですか」

「まあ見ていてよ」


 ナタニエルはそのナイフの刃で自分の人差し指の先を切りつけた。セシルはぎょっとしたが、ナタニエルは平気な顔をしていた。ナイフをまた折り畳み、ポケットにしまう。


 彼の人差し指から、血がしたたる。


 その人差し指を宙にかざした、その時だった。


 目の前から、光の洪水が起こった。


「!?」


 その光は縦に二メートル超程度の高さに広がると、今度は横にそれより少し短いくらいの幅に広がった。


 徐々に光が落ち着いてくる。


 それの形がはっきり見えてくる。


 扉だった。


 大きな光の観音開きの扉が、目の前に現れた。


「……何ですか、これは」


 ナタニエルが振り返って、嬉しそうな顔をする。


「転移門だよ」


 両腕を広げ、無邪気に語り出す。


「ぼくの最高傑作だよ。光魔法と闇魔法を組み合わせて、空間を捻じ曲げることに成功したんだ」

「空間を……」

「これを使えば、扉の向こう側とこちら側を自由に行き来できる。わざわざ魔法陣を用意しなくてもいい」


 セシルは一度ナタニエルの背後にそびえ立つ扉を眺めてから、改めてナタニエルの顔を見た。


「どこにつながっているんですか」

「ぼくの意思でどこにでもつなげられる。どこへでも、どこまででも」


 薄紅色の唇が、にたりと持ち上がる。


「でも、ここ数日は、ある特定の場所とつなげっぱなしにしている。ぼくの切り札、最終兵器がある場所とつなげてある」


 そして、「ふふふ」と小さな笑い声を漏らす。


「さあ、どこでしょう」


 セシルは唾を飲んだ。


「ヒントをいただけますか」

「いいよ、許可する」

「その最終兵器は、何に使うものですか」


 慎重に、ナタニエルの顔色を窺いつつ。


「この国は、今、平和なはずです。殿下を脅かすものは何もないはずです。それなのに、兵器とは。何と何を戦わせる気なのですか」


 ナタニエルは目を細めて、機嫌のよさそうな顔でセシルを見つめている。


「わかっているくせに、そんな質問をするんだね」


 ぞわりと、背中に鳥肌が立つ。


「もちろん、ぼくが父上と戦うためだ」


 ふくすべの第二部では、ナタニエルが覚醒して、父である王を倒し、即位する。


「この扉を開けると、父上を倒すためにあるものがこちらにやってくる」


 ぎゅっと、拳を握り締める。


「外国と、つながっているんですね」


 国内は、平和だ。

 だが、国外は、平和ではない。

 パルカール王国とオルファリア王国の戦争は停戦中であり、終戦はしていない。

 オルファリア王国がパルカール王国の動静を窺っているように、パルカール王国もオルファリア王国の動静を窺っている。

 ナタニエルがパルカール王国を気に入らないように、パルカール王国の中にも、オルファリア王国に反感を抱いている者がいるのだろう。


「パルカール王国の軍事施設ですか」

「正解」


 そう言って、ナタニエルは両手を彼自身の顔の前に掲げた。

 両方の親指と人差し指を使って、四角形を作る。

 四角形の中がぼんやり光り出した。

 そこに画面のようなものができて、セシルの姿が写った。


「開けてよ、セシル」


 直感的に悟った。

 おそらく、録画されている。


「ぼくのことが好きなら、その扉を開けて」


 ナタニエルが、笑っている。


「君が始めてよ。ぼくの治世を」






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