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悪役令嬢もののWeb発小説の世界に転生したら僕が聖女の兄で、悪役令嬢から王子を奪った妹がざまぁされそうになっていた  作者: 丹羽夏子


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第19話 何が誰に対して失礼なのか一考の余地あり

 ヴァルトラウトがセシルの部屋にたどりついたのは、それからすぐのことだった。


 彼女は怪訝けげんな顔で「いやに明るい雰囲気ね」と言いながら部屋のドアを閉めた。紳士であるところのセシルは、し、閉めるの!? と思ったが、いまさら開けてと言うのも意識しすぎのようで恥ずかしいし、ヴァルトラウトとはふくすべの設定という神視点の話をしないといけないから、親や使用人たちに聞き耳を立てられたら困る。


 ええいままよ、是非もなし。


「娘がわたくしのせいで追放されたと思い込んで恨んでいるかもしれないから、と思って警戒していたのだけれど、すんなり入れてもらえたわ」

「母上があっぱらぱーなだけなので気にしないでほしい」

「あの娘にしてこの母ありね」


 ひとの親になんてことを、と思ったが、否定できないので仕方がない。


「お見舞いに来てくれたらしいね。元気でごめん」


 結局、セシルは寝間着姿のまま自分のベッドの端に腰をおろした。ヴァルトラウトはその近くに椅子を持ってきて座った。


「本当に元気なの?」


 声に疑念と不安の雰囲気を感じ取り、苦笑する。


「おかげさまで。昨日は少しふらついてたけど、今日になったらもうぜんぜん。アリスがちゃんと聖女だったっていうことだね」

「そうね。アリスはセンスと根性がないだけで聖女なのは本当だもの、役に立ったわね」


 セシルの台詞を聞いたヴァルトラウトが、ほんのり微笑を浮かべる。


「どうなることかと思ったけれど――前世のわたくしが決めたシナリオに抗えないのかと思って一瞬絶望しかけたけれど。これで明確にシナリオが変わったわ。殿下やアリスがいなくなったあとの王都であなたが生き残るなんて、あなたの粘り勝ちねえ」


 彼女の言葉に、セシルも笑顔を作った。


「逆に考えて、これから先のストーリーが読めなくなって少々困りはするけれど……。やたらと人が死ぬのもストレス展開だろうから、かえってよかったのだと思うわ」

「やったね」

「本当に、由良みかんはやたらキャラを殺したがっていたものね……」


 不穏な趣味嗜好だ。「何それヤバくない?」と訊ねると、ヴァルトラウトが「ぐう……」と詰まる。王侯貴族や学園の生徒のモブの前では見せない顔だ。


「いえ……その……キャラは散り際の美しさで完成度が変わると思っていたので……」

「なるほど、だからふくすべのセシルは死んだんだね? 美しい散り際を見せて完成度を高めるために」

「ご……ごめんなさい……」


 道理でちょっと無理がある展開だったわけだ。由良みかんのゆがんだ性癖の発露だったらしい。


「担当編集者にも改稿しろと言われたのだけど、アリスがいなくなった後の世界でセシルが生きるイメージが湧かなかったのと、二巻にいても特にすることがなくさらっとフェードアウトになってしまうのが悔しかったので、つい……」

「……ふふ……むごい……」

「まあとにかく、次のことを考えましょう。いずれにせよエルンスト殿下とアリスが追放されたことには変わらないので、一ヵ月前後で次のイベントが起こって第二部が始まると思うの」


 セシルも切り替えて「そうなんだ」と頷いた。


 Webで言うところの第二部が紙で言うところの二巻なのだろう。セシルは二人が追放された後の展開を知らない。


 ただ、前世の妹のありすがちらっとネタバレしたところによると、パルカール王国の王太子が出てくるはずである。


 しかし、この王太子、政治関係に強いはずの今世のセシルの知識でもあまり情報らしい情報がない。パルカール王国とオルファリア王国が揉めているからだ。王太子本人がオルファリア王国に来たことがない。したがって会ったことはない。


「セシルは第二部の話の流れをご存じでないのだったかしら?」

「そうだね、書籍化された部分しか読んでいないから……妹から登場人物が増えることだけは聞いているけど」

「パルカール王国の王太子ザカリアスね」

「どんなやつ? 転生後の僕の知識によると『冷酷王子』とかなんとか二つ名がついていたように思うけど」

「原作どおりでいくと――」


 また、ヴァルトラウトが目を逸らした。


「その……かなり困った役どころなのだけれど……」

「問題児なの? ふくすべそんなにトラブルメーカーだらけの話なの?」

「いえ、違うのよ。ザカリアスは広く一般の女性読者にウケるようにかなりイケメン設定を意識して作ったキャラなの。だから強く、賢く、美しく、オルファリア男性キャラがみんな雑魚に見えるようなまばゆい王子様よ」

「雑魚ですか……」

「ただ、その――」


 もごもごと、言いにくそうに口ごもってから、白状する。


「悪役令嬢が隣国の王太子に溺愛されるのは王道ではないこと……?」


 セシルの中に、いかづちが落ちた。


「まさか……ヴァルトラウトとザカリアスのラブストーリーが……始まるということ……!?」


 言われてみれば、確かに。

 生まれ育った国で冷遇された令嬢は、価値観が違う隣国の王子に溺愛されるものである。

 Web発小説の令嬢ものにおける溺愛という言葉はかなりの頻出ワードであり、ふくすべも例外ではなかったということか。


「あっそう……ヴァルトラウトってそのザカリアスとかいうオルファリアに来たこともないやつとくっつくんだ……」


 口にしたら、謎の落ち込みが発生した。長く苦楽をともにした戦友がいつのまにか恋人を作って戦争が終わったら結婚すると言い出し、それが死亡フラグではなく本当に達成された時のさみしさだろうか。


「あ……そう……」

「ええ……まあ……」


 一瞬、部屋の中が、しーん、となった。


「こ……困るわよね?」

「いや……ヴァルトラウトの気持ちひとつじゃない?」

「こ、困るわよ。セシルが生き残ってしまったのに……」

「僕に何の関係が? オルファリア生まれオルファリア育ちの雑魚の僕とは比べ物にならないような、誰が読んでもイケメン設定のヒーローが登場して恋愛するんだよね? お幸せに!」

「……」


 黙り込んだヴァルトラウトからセシルも目を逸らす。


「どうしてそんなところだけ王道にしてしまったのかしら……」


 ヴァルトラウトが唸る。


「いえ……前世のわたくしも絶対王道絶対王道と自分に言い聞かせながらプロットを練っていたので、そうでなければ困るのだけれど……王道だったからこそ書籍化できたのでしょうし……」

「王道にしてしまった、って何か引っ掛かる言い方だね。王道じゃないほうがよかったの?」

「その……言いにくい話で恐縮ですが」


 普段の自身に満ちあふれたヴァルトラウトとはまったく違う、セシルだけが見られる彼女の弱々しい姿だ。


「由良みかんは、王道を書いたことがなくて……悪役令嬢を書けばウケるのではないかと思って、わざと、ウケ狙いで、ふくすべを書き始めたのよ……」


 意外な話だった。


「めちゃめちゃ悪役令嬢を書いてるんだと思ってた。だからこんなにおもしろいんだと――作者さんは悪役令嬢ものの作品への造詣が深いのかと」

「それが、ぜんぜん。書くことを決めてから先行作品を読んだくらいに、縁のない創作人生だったわ」

「じゃあ、ふくすべの前にはどんなのを書いてたの?」

「硬派なハイファンタジーよ。神話から世界観を作るやつ。やたら造語が出てくるの」


 前世のセシルが子供の頃読んだ児童書のファンタジーを連想した。


「へー、そういうのも書けるんだ。多才だね」

「逆よ。そういうのしか書けなかったの」


 ヴァルトラウトが自嘲的な笑みを浮かべる。


「フォローはぜんぜん増えないし、久しぶりに感想をもらったと思ったら、登場人物の名前がおぼえられません、と書かれていて……」

「なんと……」

「そんなの、Webではぜんぜんウケないのよ……」


 声がぼそぼそと小さい。


「おかげで承認欲求がこじれて……。流行りものを書いたら読んでもらえるかもしれないと思って……それで和風シンデレラや中華後宮の勉強もしてみたけれど、最終的に、わたくしが本来書きたかった戦記風ファンタジーと流行りものの令嬢ものを魔合体させればストレスは少ないのではないか、と思って、主人公の悪役令嬢ヴァルトラウトがクーデターを起こして女王になるふくすべの原案を考えて……」


 そして最後に、彼女は「ごめんなさい」と呟いた。


「こんなの……流行りものが好きな作家や読者に失礼よね……」

「え、そうかな?」


 セシルは首を横に振った。


「きっかけは何であっても、おもしろければOKじゃない? 本当に軽い気持ちで適当に書いてたら、書籍化するぐらいポイントをゲットすることなんてないんじゃないかと思うし。流行りものをきっかけに才能が開花しただけなんじゃないの」


 ヴァルトラウトが弾かれたように顔を上げる。


「作者がどう思っているかは、良くも悪くも、読者には関係ないよ。おもしろければ何でもいい」


 にこりと、笑みを浮かべる。


「おもしろい話を書いてくれて、ありがとう」


 ところが、彼女は納得してくれなかったようだ。うつむいて、黙り込んでしまった。


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