14-6 【もう一つの視点A】女勇者は女難の相?!【シーズン1完結】
「おかえり、カブちゃん」
深夜、誰もいない真っ暗な喫茶バフォメットのカウンター席に腰掛けると、背後に喫茶バフォメットのマスター、イスルギさんが出現した。
「……」
彼女の言葉を無視して、私はカウンターに並べた鎧の手入れを続ける。召喚された二人目の僧侶、八雲ソラさんには辛勝したものの、魔物の力を持つ鎧の再生力には毎度驚かされる。すでに鎧の傷は、ほとんど自己修復が済んでいた。
「あれ、聞こえてないー? おかえりー、魔王軍四天王僧侶、カブト様!」
「……」
「やれやれ、意地っ張りな子だね。おかえり、アトちゃん」
喫茶バフォメット……ここでの私は、黒金の獅子団によって弟に呪いをかけられ、弟を人質に無理矢理働かされていたところをアヤメさんに助け出された、しがない町娘アトリ。
「はい! アトリ、ただいま戻りました」
しかしその正体は、女神に仇なす人間の組織を壊滅させる魔王軍四天王僧侶、人呼んでカブト。此度の戦でも、青銅の風とかいう魔族の人身売買に手を出した組織の人員を殺処分してきた。一つ前に壊滅させた黒金の獅子団の首領はアヤメさんに殺らせてしまったが、その残党は一匹残らず私が処理した。
「それでこんな時間に、何の用ですか? 女神様」
私は満面の笑みで、マスターのほうへ振り向く。するとマスターの身体が縮んでいき、見慣れた小さな子どもの姿へと変化する。
「何の用って、ここボクの店なんだけど」
喫茶店の床に現れた魔法陣から、魔王がよく座っている玉座とそっくりの椅子を引っ張り出した女神が、その上で胡座をかく。町の外れにある寂れた喫茶店のマスターの正体は、この世界を統べる女神だった……。もちろんアヤメさんは、このことを知らない。
「それはそうですが……こんな時間に私の前に現れたということは、何か依頼があるのではないですか?」
「よくわかったねアトちゃん。次の依頼は、勇者アヤメの護衛だよ」
「アヤメさんの?」
女神に言われなくても、私はいざとなったらアヤメさんにつくと決めている。私は魔王の理想にも、女神の思惑にも興味はない。与えられた依頼はこなすが、私の生きがいはアヤメさんとラノ君の、恋路を見守ることだ。
「もうじきこの町は、戦場になる。魔王軍四天王戦士、二葉ライが……勇者アヤメを狙ってやってくる」
アヤメさんを一度は手にかけた魔法使い、クルミさん。その兄であるライさん。彼のことは正直苦手だが、クルミさんのことはもっと苦手だ。クルミさんと言い女神と言いアヤメさんの妹のルリさんと言い、なぜ皆二人の恋路の邪魔ばかりしようとするのか。
「ルリさんとソラさんが戦闘不能の今……頼れるのは君だけだ、カブトさん」
いつの間にか女神の声と容姿が、魔王の姿になっていた。
「……アヤメさんのことはお任せください。ですが、私は魔王のことは嫌いですので、その見た目はやめてください」
確か女神は、見ている者の好みの異性のタイプに見えることがあるらしい。見た目はともかく、あの魔王のそれ以外は、余すことなく大嫌いだ。
「んー……嫌よ嫌よも?」
「スキル・打首」
私が女神からもらった力は、どんな首でも打ち取るスキル。ただ、魔王や女神のような魔力が高過ぎる存在には弾かれる、まだまだ改良の余地がある力だ。魔王軍四天王であるライさんにも、効かない可能性が高い。
「やれやれ、釣れないねー。君も、恋とかしてみれば良いのに」
「いえ、見てるほうが楽しいんで結構です」
「そっかー」
女神が子どもの姿に戻る。そして玉座を軽く叩くと、そのまま床に現れた魔法陣に玉座ごと沈んでいく。
「じゃ、またね。勇者アヤメのことと……真の魔王候補のことも、引き続きよろしく頼むよ」
「……承知いたしました」
女神は手を振りながら、玉座と一緒に魔法陣に沈んで消えてしまった。アヤメさんには私の弟ということにしている男の子、カナメ君。しかし彼の正体は、ある日女神が私の元に連れてきたこの世界の他人でしかない。女神によれば、ラノ君ではなく彼こそが、次の魔王候補らしい。女神の目論見では、ラノ君が次の女神になることが確定しているからだろう。
「……」
私一人だけに戻った喫茶バフォメットのカウンター席で、私は鎧の手入れを再開する。
「ようやくおうちに帰ってこれますね、ラノ君」
もうすぐこの町に……勇者とその恋人であり、魔王候補であり女神候補である魔法使いが……帰ってくる。
シーズン1【アイラブ勇者様!】完結
次の女神誕生まで……あと###日




