2-0 【千歳アヤメの備忘録】
一つ目の魔王城の時に召喚された四人
勇者→ヒイロさん
魔法使い→ユキ会長
戦士→???
僧侶→???
二つ目の魔王城の時に召喚された四人
勇者→私
魔法使い→クルミちゃん
戦士→マシロ君
僧侶→ソラ
今回の私のパーティーメンバー
勇者→私
魔法使い→ラノ君
戦士→レン先生
僧侶→ルリ
異世界に来てから私は、物忘れがひどくなった。元の世界の記憶も、中学のころとかになってくるとあまり思い出せない。ルリからすればそれくらいが普通らしいけど、子どものころから見たもの全てを記憶していた私からすれば、少し落ち着かない。何か大事なことを、忘れているような気がして。
だからこれ以上忘れてしまう前に、せっかくだから小説風に記録しておこうと思う。私はアイドルをやめたら、小説家になりたいと思っていた。アイドル活動だって、もしかしたら小説家になるのに役に立つかもと思ってルリの誘いを受けただけ。それがまさか、小説の中のような世界で、自分が勇者をすることになるなんて。本気でドッキリかと思った。
このノートは、ルリやラノ君に見つからないようにしないと。この世界の人はあまり読み書きをしないみたいだけど、言葉や文字の雰囲気が日本語に似ている気がする。ルリはともかく、ラノ君なら解読してしまうかもしれない。それに多分ラノ君が、女神様の言っていた、私が願った恋人候補なんだと思う。
勇者を導く賢者にして、次の魔王候補の魔法使い。あの女神様は、私の恋人になる人物をそう表現していた。ラノ君が私にとって初めての恋愛対象になるかはまだわからないけど、彼が次の魔王になるのを止めるのは、きっと私の役割なんだと思う。担任のレン先生に頼んで、この学院に転校してくる彼と同じパーティーにしてもらえた。
驚いたことに、この世界には魔王城が二つあった。そして彼は二つの魔王城に、人間関係のほとんどを奪われたらしい。そこに付け込めば、彼を魔王討伐の際に便利な復讐鬼に仕立て上げられるかもしれない、ユキ会長はそう言っていた。でも実際に会ってみると、とてもそんな未来は見えなかった。
魔王候補というのはもっと怖い人かと思っていたけど、全然そんなことはない。虚勢を張って、強がって、寂しがり屋で。ラノ君は、そんなよくいる普通の男の子だった。
一人目の魔王を倒した一人目の勇者、一ノ瀬ヒイロさん。一つ目の魔王城の時に召喚された、旧四天王の生き残りの討伐を終えた彼が、もうすぐこの町に帰ってくる。私と同い年だというのに、ヒイロさんは私と違ってずっと大人びていて、一人目の魔王を倒したという功績もある。私なんかより人望も、実力もある。
聞いた話だとユキ会長は、当時ヒイロさんと一緒に召喚された、一人目の魔法使いらしい。本人にははぐらかされてしまったけど、多分本当なんだと思う。学院を守るため、一週間後の魔王城攻略には参加しないと言われてしまった。
クルミちゃんも、魔法使いだった。マシロ君とソラが募ったパーティーメンバーはまだわからないけど、今回の魔王城攻略の参加者に、召喚された魔法使いは一人もいない。二人目の魔王を倒すのに、魔法使いのラノ君はきっと大切な存在になる。だから私は、ラノ君が三人目の魔王になるのを止めなきゃいけない。それが勇者の、私の役割。
「アヤメ、逃げて!」
魔王城の大結界の前で、魔王軍四天王の一人と初めて戦ったあの日、クルミちゃんだけがあの場に残り、私とソラとマシロ君の三人は、何も成し得ないまま……王都まで逃げ帰った。
「アヤパイセン、早くこっちへ!」
「千歳……二葉は、もう……」
誰が見てもわかる致命傷。クルミちゃんは四天王の攻撃で、身体の下半分が、なくなっていた。
「クルミちゃん……! 私の、せいで……!」
クルミちゃんの顔色が、みるみる悪くなっていく。魔法で意識を保ってはいるけど、それが長くは続かないことくらい、私にもわかっていた。
「アヤメ、ストップ!」
それでもクルミちゃんは、いつもと同じ優しい笑顔で叱ってくれる。
「クルミちゃん……!」
「背負いこんじゃダメ。羽織るくらいにしないと」
クルミちゃんの役職は魔法使いだったけど、でもなぜか、魔法はずっと苦手だった。理由は最後までわからなかったけど、それでもクルミちゃんの言葉の魔法に、私は最後まで助けられた。
「今日から私は、アヤメの背後霊……じゃなくて、守護霊にランクアップしたんだから、さ!」
「でも……。でも……!」
クルミちゃんが私たちに向けて、杖を構える。
「私の見せ場、無駄にしないでよね」
「待って……!」
「スタートレイン・リスタートリップ」
クルミちゃんの最後の魔法が、私とソラ、マシロ君の三人だけを、安全な場所へと転移させる。
「ウケる……。最後の魔法が、やっと一発で、成功するなんて、ね……」
「クルミちゃん!!!」
「またね、アヤメ……。私ニ会イタカッタラ、サイカ・ワ・ラノを探すんだ」
クルミちゃんの声が、女神様の声に変わっていく。これは……夢だ。あの日から、何度も見た夢。
「サイカ・ワ・ラノ……」
「そう。勇者を導く賢者にして、次の魔王候補の魔法使い。君と彼が並び立てば……この世界は、君の思い通りだ」
彼の力で私は、クルミちゃんの仇を討たなきゃいけない。この気持ちは、絶対に忘れちゃいけない。
復讐鬼になるのは、きっと私のほうだ。




