14-3 【もう一つの視点R】ウォーズログ
「ただいま戻りました、ユキ会長」
サイちゃんとアヤメさん、ルリさんを王都に送り届けてから数時間後のお昼時。いつも通りの、ファムファタール女学院の一階、生徒会室。私はファムファタール女学院会長にして、召喚された一人目の魔法使い、柏櫓ユキさんに呼び出された。
「おかえりなさい、レンちゃん。それで、今回はどんなファンタジーを聞かせてくれるのかしら?」
私の本当の名前は、シーカー・ワ・ラノ。サイちゃんの祖母であることを隠し、サイちゃんたちが通うファムファタール女学院の教師レン・デ・カシャグラとして今回の魔王城攻略に参加した、しがない魔女。王の命令でユキさんや一人目の勇者、ヒイロさんに討伐されかけたが、ユキさんの妹がほしいという私情で若返らされ今に至る。
「それでは……先に良い知らせから。この時代一人目の勇者様、ヒイロさんの部隊が、魔王軍四天王最強の魔法使いを討ちました」
サイちゃんたちを連れて帰るより前、意識を取り戻したトゥーラさんを王都の医療施設に連れて行った時点で、砦の近くの河原にはその首が晒されていた。まだヒイロさんの軍も全員帰還していないというのに、真っ先に届けられたらしい。……同じ魔法使いからすれば、それが本物かどうかは疑わしいが。
「そのことならすでに、うちの生徒の間でも広まっているみたいよ。国に都合の良い情報が拡散されるのは早いわね。でもまた……ヒイロ派が増えてしまうわね!」
ユキさんが満足そうに微笑む。ヒイロさんは女子たちの間では根強い人気があり、ファムファタール女学院ではヒイロ派、マシロ派、そしてサイちゃん、サイカ・ワ派の三つに分かれ、混沌を極めていた。私はもちろん、サイカ・ワ派会員番号第零号だ。
「そうですね……。それから、この時代二人目の勇者、アヤメさんの部隊が全員生存して帰還しました。うちの生徒であるルリさん、タピさん、トゥーラさん、ヴァレッタさん、サイカさんは全員無事です」
とは言え魔王の魔力で暴走したルリさんは気を失ったまま。同じく魔王の魔力を受けたトゥーラさんも、まだ要観察の状態だ。
「そのようね。あの問題児三人が生き残るとは思わなかったわ。レンちゃんのおかげかしら?」
問題児三人というのは、サイちゃんが陰ながらタトバトリオと呼んでいるタピちゃん、トゥーラさん、ヴァレッタちゃんのことだろう。タピちゃんとヴァレッタちゃんはサイちゃんの幼馴染だから私も昔から知っているが、問題児であることに異論はない。
「二人目の魔王の、人徳によるものかと。この時代二人目の魔法使い、クルミさんの生存も確認できましたが、魔王側についたようです」
「つまり、ヒイロ君の敵になってしまったのね。彼女のことは……死亡扱いのままで良さそうね。それが、悪い知らせかしら?」
ユキさんが大袈裟にため息をつく。彼女にとってのヒイロさんの敵というのは、いわゆる死んだも同然というやつなのだろう。アヤメさんがそのクルミさんに殺され、サイちゃんに蘇生されたことは伝えないほうが良さそうだ。
「いえ、悪い知らせは……あと二つ、お聞きになりますか?」
「ええ。私に不都合なことは、ヒイロ君は何一つ教えてくれませんから」
ユキさんとヒイロさんは、彼女たちがいた世界では夫婦だったらしい。そしてアヤメさんとルリさんの両親だったと、ヒイロさんが以前言っていた。ユキさんはそのことを覚えておらず、見た目が変わっているためアヤメさんやルリさんも両親だということに気づいていない。でもヒイロさんは……それで良いと言っていた。
「……わかりました。この時代二人目の僧侶、ソラさんの部隊が、魔王軍四天王僧侶、カブトと呼ばれる者に壊滅させられました。ソラさん以外の冒険者の、全滅が確認されています」
魔王と共に瀕死のソラさんを連れてきた巨大な鎧武者。魔王の口ぶりでは、ヤツの名前はカブト、役職は見た目に似合わず僧侶のようだ。ヒイロさんの竜もヤツに撃墜されたようだが、指輪の宝石を修理したことで復活した。どうやらあの竜の本体は指輪の宝石のようで、ランプの魔人ならぬ指輪の魔竜といったところらしい。
「青銅の風……だったかしら? 彼らには人身売買の疑いがかけられていたそうです。生きて帰れば拷問か、もしくは今回の功績を鑑みて無罪放免になっていた可能性もあります。残念ながら、当然の結果かもしれませんね」
ユキさんは狼狽えることもなく平然と答える。
「それから……この時代二人目の戦士、マシロさんの部隊が全滅しました」
「……」
さすがのユキさんも、言葉を詰まらせる。
「あの戦士も?」
「正確には、部隊丸ごと行方不明になったと聞いています。魔王城の西側、ソラさんの部隊に関しては、上空から戦闘の形跡や遺体が確認できました。ですがマシロさんの部隊に関しては、東側の野営地の形跡を最後に、行方がわからなくなっています」
私がサイちゃんたちと魔王城の北側から攻撃を仕掛けたとき、各部隊の攻撃開始を知らせるための狼煙は、西側や南側と同様に東側からも上がっていた。その時点では、マシロさんの部隊はそこに存在していたはず。その後の魔王軍四天王の攻撃で、その場から消滅したと考えるのが妥当だろう。
「全員はないにしても、何人かは傀儡……もしくはクルミさんのように魔王側についた可能性もあります」
「そうなのね……。彼はヒイロ君の一番弟子として、よく一緒に鍛錬をしていたようだけど……ヒイロ君の敵に、彼はなれるのかしら?」
ユキさんはいつも通りの笑顔を見せ、席を立つ。今の彼女が興味を持っているのは、結局はヒイロさんのことだけだ。前世で夫婦、今世でも相思相愛の二人を裂くことは、一人目の魔王ですらできなかった。二人目の魔王にも、難しいかもしれない。
「報告ご苦労様。お孫さんのところに戻って良いわよ? 私はここで、ヒイロ君の帰りを待ってるから」
「わかりました。彼も事後処理等あるでしょうし、王都にしばらくは滞在することになると思いますが……伝言はありますか?」
「そうね……では、こう伝えて?」
窓の外を眺めていたユキさんが、こちらを振り返り無邪気に微笑む。
「私はどこへも行きませんから、焦らずゆっくり帰ってきてください、と」
どうやら健気に待ってさえいれば、男は必ず戻って来てくれると思っているらしい。
「……わかりました。伝えておきます」
いやはや相変わらず、青いな…………。




